打者の内角を厳しく攻める捕手の山下和彦さんが心配になった(阿波野秀幸)

2022/05/14 00:26配信【日刊ゲンダイ】

捕手の山下さんはガッツあふれるプレーが身上だった(C)共同通信社 捕手の山下さんはガッツあふれるプレーが身上だった(C)共同通信社

【昭和最後の伝説左腕 阿波野秀幸「細腕奮闘記」】#16

 2連勝がリーグ優勝の条件だったロッテとのダブルヘッダー。1試合目を競り勝って迎えた2試合目も、もつれにもつれた。

 同点の八回、「エディ」ことラルフ・ブライアントの本塁打で1点を勝ち越し、あと2回、ロッテの攻撃を封じれば近鉄の優勝。私は八回裏からマウンドに上がった。

 1試合目の登板は1点リードの九回裏無死一塁、2ボールという場面。ここはもう、開き直ってど真ん中に投げるしかないといった感じだったけれども、それに比べたら2試合目はある程度、覚悟のようなものをもってマウンドに上がれた。リリーフエースの吉井理人が七回から投げていたし、最後は自分がいくかもしれないという予感はあった。

 捕手は山下和彦さんだった。

 山下さんは私の2学年先輩。柳ケ浦、新日鉄大分を経て1984年のドラフト4位で近鉄に入団。私とバッテリーを組むときは、とにかく内角球をよく使った。

■体の半分が隠れるくらい

 捕手は内角球を要求する際、ミットだけ内角に寄せて構える人と、体も寄せる人と、極端に内側に寄って構える人と3通りくらいに分かれる。山下さんは3つ目のパターン。自分の体の半分が打者に隠れるくらい内側に寄って構えた。そこまで寄ってもらえると、内角に投げやすい。ミットだけ寄せられるより、体ごと内側に寄ってもらった方が目標にしやすいからだ。少なくとも自分はそうだった。中でもブーマーをはじめ、石嶺和彦さんや松永浩美さんら、一発で仕留める強打者の並ぶ阪急戦は極端に打者の内角に体を寄せて、厳しく内角を攻めた。

 打者は後ろを振り向かない限り、捕手がどの位置に構えているか分からない。けれども、分かることがある。投手が牽制を入れたときだ。ずるい打者は投手が一塁に牽制した瞬間、チラッと後ろを見る。捕手が構えている場所をそれとなくのぞくことで、自分に対する攻め方が分かるからだ。

■いい加減にしろよ!

 最近の牽制は捕手のサインがほとんど。捕手が自分でサインを出すのだから、のぞかれても構わないように構える位置をあらかじめ変えられるけど、当時は投手が自発的に牽制することが多かった。特に私は左腕で一塁への牽制には自信があったから、自分の判断で積極的にやった。

 結果として、打者は自分に対する攻め方を知るようになった。

 山下さんは特に打者の内側に寄って構えていたから、それを見た打者は、おい、おい、そんなに内に構えたら危ないじゃないか! いい加減にしろよ! という気持ちになる。

 私は山下さんのことが心配になった。(つづく)

(阿波野秀幸/元プロ野球選手)


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