『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』安室透フィーバーと本当は恐ろしい「公安警察」
いまの日本は、ふたつに分断されています。『名探偵コナン』に親しんで育った新世代と、『名探偵コナン』に触れることなく大人になった旧世代です。「ゆとり世代」より上か下かで、ざっくりと分かれます。
アニメ化されて30年が経つ『名探偵コナン』(日本テレビ系)は、小学生探偵の江戸川コナンが大人も頭を抱える難事件の数々を鮮やかに解決してみせるミステリードラマです。少年期から『名探偵コナン』を視聴して育った世代にとって、年に一度の劇場版の公開は大切な年中行事となっています。いわば「推し文化」そのものです。
一方、『名探偵コナン』が始まった時点ですでに大人だった世代は、興収100億円を軽々と突破する劇場版『名探偵コナン』の人気ぶりが、不思議に思えて仕方ありません。
最新作『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の公開も始まり、春の『名探偵コナン』まつりの最終週となる4月17日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、シリーズ第25作目となった『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(2022年)が放送されます。公安警察の安室透が大活躍します。
安室が所属する「公安」の闇に迫ってみたいと思います。
■ハロウィンで賑わう渋谷を狙う爆弾魔
今回の舞台は、ハロウィンシーズンの渋谷です。2012年に渋谷ヒカリエが開業し、街の雰囲気はずいぶんと変わったものです。そんな渋谷で、目暮警部の同僚だった村中元警視正が結婚式を挙げることになり、目暮警部や毛利小五郎はその警護にあたります。数々の凶悪犯を逮捕してきた村中に、何者からか脅迫状が届いたためです。
小五郎が爆弾事件に巻き込まれて病院送りになっただけでなく、江戸川コナン(CV:高山みなみ)も廃ビル爆破事件でピンチに陥ります。一連の爆破事件を公安警察の安室透(CV:古谷徹)は追っていたのですが、仲間を助けようとした際に爆弾魔に襲われ、首輪状の爆弾を仕掛けられてしまいます。
首爆弾はいつ爆発するか分かりません。安室の窮地を救うため、コナンは爆弾魔を追跡します。やがて、爆弾魔のターゲットは、安室だけでなく、渋谷の街全体であることが判明。コナンに加え、灰原哀(CV:林原めぐみ)や少年探偵団も、ハロウィンで賑わう渋谷を奔走するのでした。
■安室と警察学校同期生たちとの泣けるエピソード
大きな見どころとなるのは、首爆弾を仕掛けられた安室透の活躍です。メガヒットした『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)や『名探偵コナン ゼロの処刑人』(2018年)を上回るアクションシーンが用意されています。
また、安室透こと降谷零と警察学校で同期だった仲間たちとの友情エピソードも注目ポイントです。先週放送された『名探偵コナン 隻眼の残像』(2025年)に登場した諸伏景光に加え、伊達航、松田陳平、萩原研二が元気だった姿が映し出されます。警察学校の同期5人がそろった集合写真は、ファンならグッとくるところでしょう。
興収は97.8億円と、わずかに100億円に届かなかった『ハロウィンの花嫁』ですが、公開時はコロナ禍だったことを思えば、すごい数字です。「安室を100億円の男に」と劇場をリピートした女性ファンが多かったことが知られています。
「ぼくの恋人は、この国さ」という名言を『ゼロの執行人』で残した安室の、さらなる人気の高まりを感じさせたのが『ハロウィンの花嫁』でした。
■のん、筧利夫出演の公安PRドラマ
安室透を通して、「公安」という存在を知った人も少なくないでしょう。劇中の安室と同様に、実在の「公安」も組織の内部情報は明らかにしていません。国内の治安維持の役割を担うことから、これまでは戦前の特別高等警察(特高)のようなダークな印象が持たれていました。
ジェームズ・ボンドさながらに安室が大活躍したことで、公安のイメージもかなりアップしたと思われます。2022年には、人気女優・のんを主人公にしたWEBドラマ『PRIDE× ORDER 狙われる日本の技術』を配信し、しかも「警視庁公安部presents」と堂々とタイトルに掲げています。
のんが勤める中小IT企業が海外のスパイに狙われるという30分のドラマでした。『踊る大捜査線』(フジテレビ系)で人気を博した筧利夫が公安警察役で出演しています。安室人気に便乗した、公安のイメージ戦略に思えてなりません。
■公安が「捏造」した冤罪事件
しかし、この時期の公安はとんでもない大失態を犯しています。2020年に「大川原化工機」の社長、取締役、顧問を、化学兵器に転用できる機械を中国に不正輸出したと警視庁公安部は逮捕・起訴したのですが、裁判の結果、この事件は冤罪であり、捜査自体が捏造だったことが明らかになっています。
その上、同社の顧問だった相嶋静夫さんを11か月間も拘束し、体調を崩したにもかかわらず充分な治療を受けることができなかった相嶋さんは被告の立場のまま胃がんで亡くなっています。
公安トップの「見立て」に従って、現場の捜査官たちは「見立て」を裏付ける証拠を集めたわけですが、この「見立て」そのものが大きな誤りだったのです。机上の推理が、罪のない一般市民を死に追いやった恐ろしい事件でした。
この事件で唯一救いがあるとすれば、トップの「見立て」は無理筋だと気づいた捜査官が捏造の事実を証言したことでしょうか。取り調べ調書が改ざんされていたことも判明しています。上司の指示には逆らえないという、警察や検察組織の闇を浮き彫りにした事件です。
もちろん『名探偵コナン』はフィクションの世界なので、安室が大活躍するのは問題ありませんが、安室が所属する「公安」はかなりヤバい組織であることは覚えておきたいところです。
■『名探偵コナン』が始まった時代
漫画『名探偵コナン』は1994年に連載がスタートし、96年よりTVアニメ化されています。オウム真理教によるサリン事件、阪神淡路大震災、金融機関の相次ぐ破綻……と日本社会が大きく揺れ動いた時期でもあります。「失われた時代」の始まりでした。
また、Windows95が発売され、インターネットが普及したのもこの頃です。グローバル化が進み、それまでの日本社会の常識が通用しなくなるという大きな時代の転換期でもありました。
この30年、世界は大きく変化しました。その中で、変わりきれずにいる組織の代表例が「公安」ではないでしょうか。
小学生探偵の江戸川コナンは、これまでの日本社会の常識には縛られない新しい世代の象徴なのかもしれません。
文=映画ゾンビ・バブ
