『豊臣兄弟!』市の“ボーイッシュ”的伏線と織田家に滅亡させられた浅井家に仕えた藤堂家の貧困ぶり、そして石田三成ら名物キャラたちの初登場
前回(第17回)の『豊臣兄弟!』はオープニング映像がない変則スタートの回でした。そして、こういう回はとてつもない内容になるという期待通りとなりました。炎に包まれ、誰一人残っていない小谷城の庭先で切腹しようとしたものの、当然のこと、すぐには死にきれずに苦しむ浅井長政(中島歩さん)のもとに娘たちと城を出たはずの市(宮﨑あおいさん)が刀を片手に立ち戻るシーンが印象的でしたね……。
そして「いつまでもお慕いしております」といいながらの介錯。愛と死が渾然一体となった涙の一場面となりました。
その後の市は、おそらく何回か再婚話があっただろうに、それらを断り続けたようです。そしてさすがの信長(小栗旬さん)も妹に再婚の強要はできなかったようです。兄の死後、織田家を乗っ取ろうとしている秀吉(池松壮亮さん)に対抗するべく、織田家臣団の重鎮である柴田勝家(山口馬木也さん)に再嫁するという人生の選択をした市でした。そして秀吉に敗れ、二人目の夫となった勝家と人生二度目の落城を経験するわけですが……このあたり、ドラマでどう描かれるのか、とても楽しみとなりました。
たしかに筆者の周辺でも「いくらお市様とはいえ、トンデモ展開」という声もありましたし、「あの刀の振るい方では、とても首など落とせないだろう」「逆に傷が増えて長政殿の苦しみは増すばかりだったのでは……」というツッコミを入れたくなる部分もありました。
それに、浅井長政の嫡男・万福丸は「行方不明になったまま死んだだろう……」と語られ、「ナレ死」で片付けられてしまっていましたね。一説に信長の命で万福丸を(串刺し、もしくはハリツケで)処刑したとされる秀吉の手もドラマでは血で汚されぬままとなったのは、ご都合的展開ではありました。
しかしすべてを差し置いても、愛する夫に刃を向けざるを得なかった市の悲しみを演じる宮﨑あおいさんの表情があまりによかった。本ドラマの市が「ボーイッシュ」である伏線が見事に回収され、もらい泣きさせられた次第です。
――さて次回は「羽柴兄弟!」と題し、シリアスな展開続きだった昨今のムードをガラリと変える印象となりそうです。「秀吉は織田家家老に昇格し、北近江を拝領。領地に長浜城を築いて城持ち大名となり、小一郎と共に羽柴姓を名乗る。小一郎は城下の統治を任されるが、人手が足らずてんてこまい。半兵衛から、子飼いの家臣を増やすべきだと助言され、有能な家臣を求めて選抜試験を行うことに。多くの志願者が集まる中、石田三成、藤堂高虎ら個性的な若者たちが最終試験に残る」という内容になるそうです。
ここの見どころは、羽柴という“創作苗字”をどういうふうに兄弟たちが名乗るようになるのか……という部分です。
ドラマではあまり存在感がなく、兄弟との距離も近くないままですが、羽柴の「羽」は、彼らの指導役のような立場だった丹羽長秀(池田鉄洋さん)の姓から。そして「柴」は、口八丁手八丁で成り上がってきた兄弟にあまりよい感情を抱いていない織田家の重鎮・柴田勝家の姓から取られています。
“創作苗字”は「信長様のお気に入りのお二人に、私もあやかりたい!」という秀吉によるヨイショのようで、実際は「ついにお前らと肩を並べたぞ」という勝利宣言であり、「これからは同格のライバルとして切磋琢磨しましょうぞ」という挑戦状でもありましたから……。
また、石田三成(松本怜生さん)や藤堂高虎(佳久創さん)といった後の豊臣家の重臣たちは秀吉の長浜城主時代(天正4年・1573年~)に臣従したといわれているのですが、ドラマではオーディションの結果、採用されたという設定になるようですね。
たしかに百姓上がりの木下あらため羽柴家の場合、他の織田家重鎮・お歴々の方々のような歴代の家臣はおりませんから、どうやって石田三成や藤堂高虎と秀吉の縁が生まれたかは推測するしかありません。
例えるなら当時の羽柴家は“ベンチャー起業”ですから、通常の「誰かの紹介」か、「戦場での働きを見てのスカウト」という通常の家臣採用手段に頼らず、大胆な採用試験を行っていた可能性もなきにしもあらず、です。
石田三成は秀吉とどうやって絆を深めたのか
永禄3年(1560年)誕生説が有力で、当時14歳だった(とされる)石田三成と秀吉の出会いエピソードとしては、「三献茶」というものがあります。江戸時代の軍記物(『武将感状記』など)の創作逸話ではありますが、貧しい家の生まれで観音寺というお寺に預けられていた三成少年が、鷹狩後に同寺を訪れ、休息中の秀吉に茶を3回にわたって提供したことから、お仕えする相手への繊細な配慮が出世にはなにより大事だよと教える逸話として今日でも有名です。
三成は運動後に喉が乾いているだろう秀吉に最初から熱い茶は出さず、ぬるい茶から、段階的に熱くしていったという心配りを見せ、秀吉からたいそう評価された……というのですが、実際はどのように秀吉と三成が出会い、絆を深めたかは謎です。
当時のデータは残されていないので、推測になりますが、三成は逸話に見るように“孤児”や“寺の小僧”ではなく、近江の「地侍」の家に生まれたようです。そして父・正継、兄・正澄と共に、浅井家に代わって近江の新領主となった秀吉に(他に選択肢もなく)仕えるようになったのではないでしょうか。
ふだんは畑を耕し、戦になれば武器を手に足軽として戦うのが「地侍」なのですが、頭の回転が早く、数字にも強く、そして何より秀吉への謎に忠誠心が高い三成が、ほかにそういうキャラの家臣もいなかったことから、父や兄よりも大出世することになった……という経緯があったのではないかと思われます。
特に三成の才能が発揮されたのは、「物流方面」です。軍団が巨大化するにつれ、「いかに食料と弾薬を効率よく運べるか」が課題となりますが、それを難なくこなせたのが三成でした。そして三成も自分を引き立ててくれた秀吉への恩義に生きることになったのです。
ドラマ的には、三成が最初からミョーな理屈っぽさを見せるロジカルモンスターで、体育会系ばかりの候補者や、家臣たちをも鼻白ませ、秀吉だけが彼を気に入るという演出になるかもしれません。
石田三成とならぶ重要な新キャラとなりそうな藤堂高虎に関していうと、第15回「姉川大合戦」での初登場シーンの通り、秀吉が仕える信長が滅ぼした浅井家の家臣――とはいっても、石田家同様に「地侍」の家の息子でした。しかし個々人の働きへの評価で、石田家よりは多少ステイタスは上だった(時期もある)というところです。
藤堂高虎の父は浅井長政に仕え、高虎もわずか15歳で(地獄絵図のようにドラマでは描かれた)「姉川の戦い」に出陣し、敵の首を上げるなどの活躍を見せ、浅井長政から「感状(功績証明書)」をいただいたといいます。
しかしその後、ドラマに描かれたように浅井家は織田家に滅亡させられたので、藤堂家は武士としての職場そのものを失い、農民生活に逆戻り。貧困にあえいだようです。江戸時代の逸話にすぎませんが、「えらくなったら払うから!」とかいって餅屋で食い逃げする窮乏生活も送ったとか。
――が、天正4年(1576年)、羽柴秀長(仲野太賀さん)が、築城などさまざまなジャンルの知識と技術を持っている21歳の高虎に目をつけ、自分の家臣にしたことが史実からわかります。しかし、この時に高虎に与えられたのはわずか300石でしたが……。
史実では、天正元年から天正4年にかけ、浅井家という仕官先を失った高虎は何人もの主人候補の間を渡り歩き、「この人でもない、あの人でもない」と試行錯誤を繰り返していました。そういうニュアンスをドラマが活かすのであれば、秀吉に一度仕えるが、数年後、秀長に惚れて、秀吉から鞍替えするというような描かれ方になるかもしれませんね。
「武士は七度、主君を変えねば一人前とはいえない!」と豪語したとされる高虎ですが、秀長には非常に献身的で、秀長が亡くなるまでの約15年間、一度も彼のもとを離れようとはしませんでした。秀長も高虎を高く評価し、300石で抱えてから9年後、30歳になった高虎を1万石の大名にしています。
ちなみに藤堂高虎の遺訓冒頭は「仁義礼智信の五徳の一つでも欠けていたら、諸々の道は成就しない」という内容なのですが(『高虎遺書』あるいは『藤堂家家訓』)、おそらく彼自身、主人側にも「五徳」を強く求めるタイプだったのでしょう。
それゆえ、秀長という支えを失って奔放すぎる部分だけが目立つようになった秀吉、そして秀吉亡き後は、石田三成や淀殿に牛耳られた豊臣家自体に「五徳」が感じられなくなったので、高虎は豊臣家を後にして徳川家康の傘下に入った……そういうことだったのかもしれません。ちなみに高虎は家康(松下洸平さん)からも高く評価され、最終的には津藩(現在の三重県)32万石を与えられた大大名となっていますね。
戦国時代当時は、リスクを取って「転職」する家臣より、「転職」したくなるようにさせた主人が悪いとされましたが、成長より保身を重視する江戸時代の武士社会において「他家への転職」は主君を見限る重罪として考えられるようになったのです。まぁ、それでも高虎の転職回数はかなり多いほうだったのではないでしょうか。
ゆえに後世の高虎評は「主君を七回変えた男」とか「裏切りの名手」になりがちです。しかし、個人的には、自己評価が正しく高く、「こんな仕事は自分に向いていない」ときちんと判断できる秀才であったのではないか、と感じられるのが、藤堂高虎という人物です。
まあ「意識だけ高い系」は今も昔もゴロゴロといる中、彼のようなレジェンド級は稀ですから、実際に羽柴家への“就職試験”があったところで、その時点でもすでに主君の鞍替えを何度もしている高虎がよく書類選考で落とされなかったな……という気もしますが(これも採用官・秀長の功績なのでしょう)、次回以降、これからドラマを彩ってくれる名物キャラたちの登場シーンに期待しましょう!
(文=堀江宏樹)
