ブルース・リーの継承者はローマにいた!? 超ブラボーなカンフー映画『シャオ・メイ』
世界中にカンフーブームを巻き起こしたスーパースターといえば、香港出身のアクション俳優のブルース・リーだ。彼が主演した『ドラゴン危機一発』(1971年)などのカンフー映画は、今なお多くのファンに愛され続けている。人気絶頂期の32歳で急逝したブルース・リーは、アクション映画愛好家にとって“神”に近い存在と言っていい。
そんなブルース・リーの信奉者は、イタリアの首都ローマにもいた。ガブリエーレ・マイネッティ監督は永井豪作品にオマージュを捧げた『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年)で長編監督デビューを果たした筋金入りの偏愛系監督。最新作『シャオ・メイ/ローマ大決戦』は、マイネッティ監督の地元ローマでカンフーバトルが繰り広げられるアクション映画だ。実写映画『ムーラン』(2020年)などでスタントを務めた新鋭女優リウ・ヤーシーの初主演作となっている。
9年ぶりに来日したマイネッティ監督が、ブルース・リーに出会った衝撃から、現在のハリウッド製アクション映画に感じていることまで、大いに語った。
イタリア風味強めの新時代の『ドラゴンへの道』
――9年前の日刊サイゾーに続き、マイネッティ監督の取材は2度目になります。永井豪だけでなく、ブルース・リーも大好きだったんですね。
ガブリエーレ・マイネッティ監督(以降、マイネッティ) もちろん、永井豪さんの作品をはじめとする日本のアニメは大好きで、僕は日本のアニメの影響を強く受けて育ちました。同じようにカンフー映画も大好き。僕が7~8歳の頃に『ドラゴン危機一発』を観て、ブルース・リーは僕にとって最高のアクションスターになったんです。彼は単なる俳優ではなく、偉大な格闘家でもあった。佇まいも、闘い方も美しかった。低予算の映画でも、彼がカメラに映っているだけで、特別な作品になりました。僕がアジア系の映画を知るきっかけにもなったんです。イタリアではブルース・リーの映画を観た子どもたちは、みんな彼の真似をするので、映画館には「よい子は真似しないように」と注意書きが出ていたほどです(笑)。
――中国の「ひとりっ子政策」下で密かに育った女性シャオ・メイが、消息を絶った姉を探す『シャオ・メイ/ローマ大決戦』ですが、ブルース・リー主演&監督作『ドラゴンへの道』(1972年)がローマでロケ撮影されたことがネタになっています。
マイネッティ ローマっ子はみんな『ドラゴンへの道』が大好きです。イタリアでは正義のヒーロー気取りでいると「ブルース・リーのつもりかよ」とツッコミを受けます。まぁ、今の若い世代に通じるかは別ですが(笑)。『シャオ・メイ』は自分なりの『ドラゴンへの道』を撮りたかったんです。『ドラゴンへの道』ではブルース・リーとチャック・ノリスが激闘を繰り広げるコロッセオなど、僕が暮らしているローマの街が舞台となっていました。『ドラゴンへの道』を初めて観たときは感激しました。
でも、『ドラゴンへの道』でのローマは物語の背景でしかなかった。それで僕が撮った『シャオ・メイ』は、ローマという街が物語に深く関わる形でキャラクターたちを登場させました。よりドラマとして、深みのあるものにしたかったんです。
アクション映画の主人公が女性になった理由
――シャオ・メイとローマっ子のマルチェッロ(エンリコ・ボレッロ)がスクーターでローマ市内を巡る『ローマの休日』(1953年)を意識したシーンもありますね。
マイネッティ 『シャオ・メイ』は異なる価値観、異なる文化で育ったふたりのラブロマンスであるのと同時に、イタリア映画と中華圏の映画という異なる映画言語が出会い、交わる作品でもあるんです。この実験がうまく成功したかどうかは、これからご覧になる方たちに判断してもらえればと思います。いろんな映画をオマージュしていますが、オリジナリティーあふれる作品にはなったと自負しています。今のイタリア政府は極右政権となり、ファシスト的、排他的になっていますが、異なる文化が交じり合うことで世界は豊かになるー。僕はそう信じているんです。
――マイネッティ監督の前作『フリークスアウト』(2021年)は、『X-MEN』『ファンタスティック・フォー』などのアメコミの世界をオマージュしながら、サーカス団員たちがナチスと戦う物語でした。
マイネッティ うちの家系はちょっと変わっていて、祖母は一度、米国のニュージャージー州に移住し、それからイタリアに戻っています。それもあって、うちの親族は米国に多いんです。僕の妹は米国で暮らしているし、僕も子どもの頃はアメリカンスクールに通っていました。アフリカ系の親友がいましたが、1980年代のローマでは珍しかったと思います。NYで暮らした体験もあり、多彩な文化が融合した街のダイナミズムを感じました。
でも、やっぱり僕はローマっ子なんです。『シャオ・メイ』ではカンフーの達人であるシャオ・メイは屈強な男たち50人を相手に戦います。女性が男性50人と戦って勝てるわけがないと思うかもしれませんが、僕の家族は祖母も母も妹も、みんなタフなんです。彼女たちの強さを知っていたので、次に撮るアクション映画の主人公は女性だと決めていました。
今のイタリアは保守政権となり、新しい変化を受け入れようとしなくなっています。変化することが怖いから「守る」と言っているわけです。でも、しっかり根づいた文化なら、そう簡単に壊れるものではありません。移民を恐れる今の閉鎖的な社会のほうが問題です。僕はかつての米国が好きでした。でも、今のトランプ大統領が「アメリカ・ファースト」と掲げ、国境に壁を作っていることはバカげていると感じています。どの国にも、それぞれの良さがあるはずです。
シリーズものを連発するハリウッドへの提言
――『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』はローマの水質汚染がモチーフになっていました。『シャオ・メイ』はローマの移民街が舞台になっています。エンタメ作品の中に、社会的メッセージを盛り込んでいるのもマイネッティ作品の特徴ですね。
マイネッティ いやいや、僕は映画館に来てくれたお客さんたちに楽しんでもらうことを第一に考えているよ。政治的な映画を撮っているつもりはないんだ。「これは政治的メッセージを込めた映画です」と僕が言っても、興味を示す人は少ないでしょう(笑)。自分とは考え方が違う人にも気軽に観てもらい、楽しんでもらった上でほんの少し移民問題についても考えてもらい、「社会不安を移民のせいにするのはやめよう」と思ってもらえれば最高です。ガードをゆるく下げてもらったほうが、こちらも「パンッパンッパンッ!」とパンチを決めやすいからね(笑)。
――トム・クルーズ主演のアクション大作「ミッション:インポッシブル」シリーズ(1996年~2025年)が大ヒットする一方、『ジョン・ウィック』(2014年)のような生身のスタントを売りにした作品も人気です。1970年代~80年代に黄金期を築いた香港カンフー映画以降のアクション作品を、マイネッティ監督はどのように感じていますか?
マイネッティ 「ミッション:インポッシブル」シリーズはすごい大金を稼いでるわけだよね。トム・クルーズはビジネスマンとしては正しいと思うよ。でも、60歳を過ぎたトム・クルーズが、若い俳優たちを差し置いて、世界を救い続けるのはどうなんだろうね。ボクシング映画『ロッキー』(1976年)のシルベスター・スタローンは、『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)で自分が被っていた王冠を次の世代にちゃんと継承したよね。スタローンはレーガン大統領の時代を生きて、政治への関心もあったと思うんだ。でも、トム・クルーズにはそれがない。
ヒットしてるからいいじゃないかという見方もあるだろうけど、僕はそのことに危うさを感じるんだ。僕も「ミッション:インポッシブル」シリーズは第3作『M:i:III』(2006年)くらいまでは好きだった。監督たちの作家性が感じられたからね。でも、最近のシリーズはアクション映画ではなく、トム・クルーズを見せるだけのものになっている。スタント出身監督が撮った『ジョン・ウィック』はそうしたアクション大作のアンチテーゼでもあり、僕も好きだったけど、シリーズ化されるにつれ、どんどん新鮮味が消えてしまった。アクション映画は新しいアイデアと新しいスターが出てこないと、やっぱり面白くないよ。
今、アクション映画に限らず、すごい数のシリーズ作品が製作されているけど、スタジオの経営が難しい時期にあることを示しているんじゃないかな。TVシリーズだと第6シーズンとか第7シーズンまで続いているのは、どう考えても長過ぎだよね。視聴者を人質にしている。あまりに長時間、人を縛り続けるのはどうかと思うよ。
カンフー映画には明確なテーマがある
――『燃えよドラゴン』(1973年)の「考えるな、感じろ」など、ブルース・リーは数々の名言を残しました。マイネッティ監督がブルース・リーをはじめとするカンフー映画から学んだことがあるとすればなんでしょうか?
マイネッティ「友よ、水になれ」かな(笑)。僕が幼い頃、カンフー映画ばかり観ていたので、うちの母は僕が暴力的に育つのではないかと心配していた。暴力的なアクション映画が多いのは確かだけど、ブルース・リーの映画にはスタイリッシュな美しさがあった。そうした映画の中で描かれるアクションは、一種のメタファーだと思う。人間は目が覚めてから夜になって眠るまで、起きている間は闘いの連続です。生きることは闘いである。そのことを分かりやすく描いたものがアクション映画じゃないかな。自分の中にある葛藤を、どう克服するかという重要なテーマが描かれている。
僕が撮った『シャオ・メイ』では、シャオ・メイはローマで恋愛も経験するけど基本的な軸は変わらない。でも、もうひとりの主人公であるマルチェッロは、イタリア料理店のシェフとしてずっと厨房にこもりきりだったのが、シャオ・メイと出会ったことで運命が大きく変わっていく。異なる文化に触れたマルチェッロの成長の物語でもあるんだ。人生をどう生きるか、自分の運命をどう切り開いていくのか。僕がカンフー映画から学んだことがあるとすれば、そういうことだと思うよ。
僕には10歳になる子どもがいるけど、そろそろ一緒にブルース・リーの映画を観ようと思っているんだ。妻は嫌がっているけどね(笑)。
(取材・文=長野辰次)
映画『シャオ・メイ/ローマ大決戦』
監督・脚本/ガブリエーレ・マイネッティ スタント監修/ヤン・リャン
出演/リウ・ヤーシー、エンリコ・ボレッロ、マルコ・ジャリーニ、サブリナ・フェリッリ、チュンユー・シャンシャン、ルカ・ジンガレッティ
PG12 5月29日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(c)2025 WILDSIDE S.R.L.? GOON FILMS S.R.L.? PIPER FILM S.R.L.
https://xiaomei-movie.jp/
●ガブリエーレ・マイネッティ
1976年11月、ローマ生まれ。2008年、TVアニメ『ルパン三世』をオマージュした短編映画『Basette』を発表。2012年には、TVアニメ『タイガーマスク』にインスパイアされた短編映画『Tiger Boy』を制作。長編デビュー作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年)はイタリアで大ヒットを記録。長編第2作『フリークスアウト』(2021年)はアメコミをモチーフに、ナチスと戦うサーカス団を描いた。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』はDVD化され、『フリークスアウト』はPrime Video、U-NEXTなどで配信中。
