池山隆寛監督率いるヤクルト、快進撃を支える“爆発力”と“再生力”の正体

2026/06/25 22:00配信【サイゾー】

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 村上宗隆が海を渡り、山田哲人も一軍でフル稼働していない。かつてなら、チームの重心そのものが失われても不思議ではない状況で、ヤクルトが再び走り出している。


 理由は、単に打線が当たり始めたからではない。四球、出塁、機動力、集中打、継投がかみ合い、“ひとりで勝つチーム”から“つながって勝つチーム”へと形を変えつつあるからだ。


 その変化を下支えしているのが、野村ヤクルトの黄金期、野村楽天での指導経験、高津政権下でのファーム育成を知る池山隆寛監督の経験値である。


 快進撃を支える“爆発力”と“再生力”の正体を解説する。


【編注:本記事のデータは2026年6月21日時点のものです】


菅野智之が体現する老獪さ


池山隆寛監督の経験値がヤクルトの“再生力”を支えている


“再生力”の裏には池山隆寛監督の経験値もある。池山は現在の一軍監督であり、球団公式プロフィールでも、ヤクルトと楽天で現役・指導者の両方を経験してきた人物として紹介されている。しかも野村克也監督の下では、ヤクルトの選手として9年間、楽天では一軍打撃コーチとして4年間を過ごし、計13年間も“野村野球”に触れてきた。


 さらに高津政権下では2020年から6年間ファームを率い、若手育成の現場を担ってきた。つまり、池山は黄金期の「勝つ組織」と再建期の「育てる組織」の両方を内側から見てきた監督なのである。


 しかも野村ヤクルトの黄金期で池山が経験したのは、単なる優勝体験ではない。ヤクルト球団史の公式記録をたどると、1992年はジャック・ハウエルが打撃二冠を獲得し、古田敦也が打率.316、30本塁打、飯田哲也が盗塁王となってリーグ優勝を達成。1993年はリーグ連覇と日本一を成し遂げた。


 その過程ではサヨナラ暴投、サヨナラ本塁打、17対16の大乱戦、ルーキー伊藤智仁から西村龍次へつなぐ投手リレー、さらに日本シリーズでは1対0の接戦を守り切る勝利まであった。1995年は5人の2桁勝利投手を擁して日本一、1997年は独走優勝からの日本一を達成している。


 池山は「強打で押し切る」「足で揺さぶる」「継投で逃げ切る」「接戦を拾う」といった多彩な勝ちパターンを黄金期のど真ん中で体感してきたのである。


 この経験は今のヤクルトにかなり合っている。繰り返しになるが、村上という絶対的な主砲はもうおらず、山田も一軍でフル稼働していない。だからこそ今のヤクルトは、「誰かひとりが勝たせるチーム」ではなく、「四球、出塁、機動力、集中打、継投で勝ち筋を複数持つチーム」になる必要がある。


 野村ヤクルトでの成功体験と、高津政権下のファーム育成で得た視点。その両方を持つ池山だからこそ、若手と中堅、主力と脇役をかみ合わせながら、“つながって勝つ”形へとチームを導いているように見える。


長打力そのものより「流れの変え方」が嫌なチーム


 このチームの変化を最もよく表しているのは、村上と山田の不在を前提にしながら、なお勝ち筋を作れていることだ。


 村上は2025年オフにホワイトソックスと契約し、ヤクルトを離れた。その後のヤクルトは、スターが全てを背負うチームではなく、打順全体で流れを作るチームへ変わりつつある。


 実際、チーム打撃成績を見ると、ヤクルトは67試合で打率.237、222得点、42本塁打、47盗塁。数字だけ見ても長打だけに偏ったチームではない。ホームランはあるが四球も選び、走ることもできる。


 つまり得点の作り方がひとつではないのだ。打てる主砲ひとりに寄りかからない分、攻撃の入口が複数ある。そこに“つながって勝つ”ヤクルトの輪郭が見えている。


 象徴的だったのが、リーグ戦再開初戦となった6月19日の広島戦だ。ヤクルトは12安打9得点で快勝。4回に内山壮真の適時二塁打、2本の犠飛などで一挙5点を奪い、7回にも武岡龍世の2点適時二塁打などで3点を追加した。


 ここで重要なのは、誰かひとりの一発ではなく、連打と犠飛と追加点が連動していたことだ。しかも、翌20日の広島戦は敗れたとはいえ、増田珠のソロ本塁打、オスナの2本塁打で6点を奪っている。勝っても負けても、攻撃の線がつながり始めているのである。これは単なる一時的な好調というより、打線の回路が戻ってきたと見るべきだろう。


 個々の数字を見ても、その構造は分かりやすい。サンタナは打率.249、12本塁打、出塁率.370と、長打と出塁の両面で打線の軸になっている。オスナは打率.229ながら5本塁打、22打点を記録し、中軸で走者を返す役割を担う。


 長岡秀樹は打率.235、出塁率.301、21得点。さらに増田珠は打率.275、出塁率.355、5本塁打、岩田幸宏は打率.259で18盗塁、古賀優大は打率.262、武岡龍世は20打点を記録している。つまり、上位が出て、中軸が返し、下位が攻撃を切らさない形が少しずつできているのだ。


 村上のような“全てを変える4番”はいない。しかし、今のヤクルトの怖さは、単純な破壊力ではない。四球を選び、足を使い、そして一打で流れをひっくり返すところにある。


 チーム全体で173四球、47盗塁という数字は、その攻撃が「長打待ち」ではなく、出塁、機動力、連打を絡めながら相手投手に圧力をかける形へ変わりつつあることを示している。


 さらに6月19日の広島戦で見せたように、適時打だけでなく犠飛でも点を取れる。こういうチームは相手投手からすると非常にやりにくい。アウトをひとつ取っても終わらず、長打を防いでも次の1点が消えないからだ。


 だから、勢いのある時のヤクルトは、順位以上に厄介になる。打線の連動性が戻ると、主力と脇役、若手と中堅の境目が薄くなる。誰かひとりを抑えても次が来るし、ビッグイニングを防いでも小さく削られる。ヤクルトが“最も嫌なチーム”になるのは、たいていこういう時である。


投手陣も「属人的ではない勝ち方」に寄ってきた


 もうひとつ大きいのが、投手陣がひとりの絶対的エースに依存していないことだ。チーム防御率は3.20、18セーブ、46ホールド、55HP。セ・リーグ全体で見ると防御率は巨人、広島、阪神に次ぐ4位だが、3点台前半で踏みとどまっており、崩壊している数字ではない。これは圧倒的エースがひとりで勝たせている数字というより、先発と救援を合わせた全体設計で持たせている数字だ。


 先発では山野太一が防御率2.40で7勝、松本健吾が防御率2.52、奥川恭伸が2.71、高梨裕稔が2.73、吉村貢司郎が3.65。勝ち頭の山野が軸になりながらも、松本、奥川、高梨も試合を作れる水準にあり、先発ローテ全体で勝負できている。


 救援ではキハダが16セーブ、防御率2.66、復活した清水昇が防御率0.96で8ホールド1セーブ、星知弥が防御率1.48で16ホールド、小澤怜史が1.35、阪口皓亮が0.00、さらにリランソも13登板で防御率0.00、6ホールドと、後ろにも計算できる駒が並ぶ。


 もちろん、12球団最強クラスの盤石さとはまだ言い切れない。だが、「今日は誰が投げれば終わるのか」がある程度整理されているのは大きい。絶対的なエースがいなくても勝てるのは、勝ち方が属人的ではないからだ。これは今のヤクルトの“再生力”の中核である。


 この快進撃をそのまま信用し切るのも危ない。6月の試合日程を追うと、ヤクルトは6月4日から11日まで7連敗。その後、12日にソフトバンクに4対2で勝ち、14日には4対0で勝ち、19日には広島に9対2で快勝したが、20日は6対8、21日は1対2で連敗した。つまり今のヤクルトは、爆発できる一方で、波もかなり大きい。走り出す時は一気だが、止まる時も急だ。


 この波の大きさは、逆に言えば、まだ“本物の上位チーム”として完成していないことも示している。打線の連動性が高い日は大量点が入るが、21日の広島戦のようにロースコアになると、最後の一本が出ずに落とすこともある。接戦とロースコアゲームをどこまで拾えるか。ここを越えない限り、快進撃は「怖いチーム」で終わり、「強いチーム」にはなり切れない。


 ヤクルトが走り出した理由は、ただ打線が当たり出したからではない。村上のMLB移籍、山田の一軍不在という穴を前提にしながら、打順全体の役割が整理され、出塁と長打と機動力がつながり始めたことが大きい。投手陣もまた、絶対的エース頼みではなく、先発と救援の分担で試合を壊しにくくしている。だから今の浮上は、偶然の上振れだけでは説明しづらい。


 ただし、その連動性をどこまで維持できるかが、快進撃を本物の上位進出につなげる条件になる。勢いのある時のヤクルトは、間違いなく最も嫌なチームになる。だが、夏場以降に接戦やロースコアゲームでも勝ち切れてこそ、それは“嫌なチーム”から“強いチーム”へ変わる。今のヤクルトは、その分岐点に立っている。


変わりゆく遊撃手像


(文=ゴジキ)



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