『トイ・ストーリー3』はなぜ泣けるのか? おもちゃを通して描かれた「人類の記憶」

2026/06/26 12:00配信【サイゾー】

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 全人類が泣いたー。そんなキャッチコピーをつけたくなるのが、「ピクサー」制作のCGアニメ『トイ・ストーリー3』(2010年)です。本当にね、『トイ3』でシリーズが完結していたら、アニメ界の聖典になっていたんじゃないでしょうか。


『トイ2』見逃せない伏線


 7月3日(金)から最新作『トイ・ストーリー5』が公開されるのに合わせ、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、『トイ・ストーリー』(1995年)から4週連続でシリーズ全4作を放送しています。


 6月26日(金)は、お待ちかね『トイ3』のオンエアです。なぜ『トイ3』は、観た人の涙腺をここまでぐいぐい押すのか。子どもだけでなく、大人も魅了されるのか。その秘密を深掘りしてみます。


大学入学が決まったアンディとのお別れ


 ディズニーのCGアニメ『アナと雪の女王』(2014年)に抜かれるまで、アニメ映画の歴代最高興収記録を打ち立てた『トイ3』は、こんなストーリーです。


 保安官人形のウッディ(CV:唐沢寿明)たちの所有者である人間の少年・アンディは、17歳になりました。大学入学が決まり、実家を出ていくことになります。


 アンディのいちばんのお気に入りのウッディは連れて行かれるものの、アクションフィギュアのバズ(CV:所ジョージ)や他のおもちゃたちは、屋根裏部屋へ片付けられることに。いつかアンディが結婚し、子どもが生まれれば、またみんなで一緒に遊ぶことができるかもしれません。そんな淡い希望を持ちながら、ウッディはバズたちとお別れします。


 ところが、アンディのお母さんの勘違いで、黒いビニール袋に入れられたバズたちはゴミ回収車送りとなってしまいます。このことに気づいたウッディは、仲間たちを放っておくわけにはいきません。危うくこの窮地を脱したおもちゃたち一行は、近所にある「サニーサイド保育園」へと向かうのでした。


 いつまでも子どもたちと遊んでいられる理想郷に思えた「サニーサイド保育園」ですが、実はハグベアのロッツォ(CV:勝部演之)が支配する恐ろしい場所だったのです。


人類の負の歴史を体験するおもちゃたち


 よく言われていますが、『トイ・ストーリー』はおもちゃを通して描かれた米国社会です。保安官人形のウッディは、西部開拓時代に代表される過去の米国。バズは宇宙開発へ向かう未来の米国です。フロンティア精神を大切にする米国人のアイデンティティそのものを、このCGアニメシリーズは描いているわけです。だからこそ米国で特大ヒットしたのでしょう。


 しかし、おもちゃたち全員がアンディの家から出ていく『トイ3』は、米国の歴史だけでなく、全人類の歴史を包括したものにスケールアップしています。カウガール人形のジェシーたちが受難に遭う「サニーサイド保育園」は、共産主義国家の強制収容所を思わせるものがあります。


 独裁者のロッツォに逆らうおもちゃは、ボロボロになるまで年少の子どもたちの相手をさせられ続けます。生きては出られない、絶望の世界です。電源をリセットされたバズは、ロッツォの言いなり状態になっています。まるで洗脳されたかのようです。


 さらに「サニーサイド保育園」を脱出した一行を待っているのは、地獄の業火でした。大量虐殺の記憶を今に伝えるアウシュビッツ強制収容所を想起させます。バズやジェシーたちが手を取り合うシーンは、何度観ても息が止まります。人類に下される「最終審判」を、ウッディたちが身代わりとなって受けているようにも感じられます。


 人間が負った穢れや病いを、人形に身代わりにさせるという古い民間信仰があります。メキシコに伝わる「死者の日」を題材にしたファンタジーアニメ『リメンバー・ミー』(2017年)でも知られるリー・アンクリッチ監督が撮った『トイ3』は、前2作にはない複雑味のあるテイストとなっています。


アンディの「父親代わり」だった保安官人形


 人類の暗黒の歴史も体験することで、おもちゃのはずのウッディたちは、以前とは異なる存在となっていきます。ウッディの顔の造形そのものはシリーズ第1作から変わっていないはずなのに、大人になったような深みが感じられます。


 アンディには母親と妹がいますが、父親は一度も登場したことがありません。離婚か死別したのかは定かではありませんが、シングルマザーとしてアンディをここまで育てたお母さんも感慨深いことでしょう。


 おもちゃのウッディもそうです。おもちゃたちのリーダーであると同時に、アンディのことをいつも心配し、アンディの想像の世界で一緒に遊ぶことを至上の喜びとしてきました。おもちゃなので出来ることには限りがありましたが、保安官人形のウッディがいつも近くにいることにアンディは安心感を覚え、寂しさを解消してきたのです。アンディの前ではいつも無口なウッディですが、彼は彼なりに精一杯、アンディの父親代わりを務めてきたと言っていいんじゃないでしょうか。


 アンディが他人想いの優しい若者に育ったことは、遊び相手だったウッディにとっても大きな喜びに違いありません。物語のクライマックス、大学へと向かうアンディを見送るウッディの姿は、どこか「父性」的なものが伝わってきます。


シリーズ中でいちばん成長したのは誰?


 大学に進学するアンディだけでなく、おもちゃのウッディたちも、目には見えない内面的な成長を遂げていたのです。そして、おもちゃの世界を描いた「トイ・ストーリー」シリーズは、同時に我々の成長の記録でもあると思うんですよね。


 CGアニメとして描かれてきたこの物語を見守ってきた自分たちも、1995年の第1作の公開から少しは成長したんじゃないでしょうか。アンディとウッディの関係性に、涙を浮かべるくらいの感受性を持つようにはなったわけですから。


 アンディ少年の「親離れ」と、おもちゃのウッディの「子離れ」を見事に描いた『トイ3』でした。米国だけでなく、世界中で大ヒットしたのも納得です。


 来週7月3日(金)の『金ロー』は、『トイ・ストーリー4』(2019年)を放送します。『トイ3』で美しく完結したのですが、『トイ3』が記録的な大ヒット作になったことから、商魂たくましいディズニー社はさらなるシリーズの続行を決めたのです。


 成長と退化の違いは紙一重であることも、我々は覚えておいたほうがいいかもしれません。


『トイ・ストーリー』はホラー映画だった!


(文=映画ゾンビ・バブ/映画ウォッチャー)


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