「ちゃんと寝る人」は損している? 年収1000万円層が感じる“睡眠と仕事”のリアル
「毎日眠い」「休日に寝だめしている」「仕事に集中できない」「会議中に意識が飛びそうになる」――。
多くの会社員にとって、こうした状態はそれほど珍しくない。むしろ「働いていれば多少の寝不足は仕方ない」と、半ばあきらめている人も少なくないだろう。
ただ、それを「自己管理ができていない」「夜更かししているだけ」と片づけていいのだろうか?
4人にひとりが睡眠不足……“眠れない正社員”が増加中
マイナビ転職が20?50代の正社員600人を対象に実施した「睡眠と仕事に関する意識調査」では、正社員の26.9%が睡眠時間6時間未満だった。およそ4人にひとりが、成人に推奨される6時間以上の睡眠に届いていない計算だ。
さらに、現在の平均睡眠時間は6時間14分。それに対して、理想の平均睡眠時間は7時間13分だった。つまり、多くの人が「あと1時間眠りたい」と感じながら、毎朝職場へ向かっているわけだ。
今回の調査について、マイナビ転職キャリアトレンド研究所リサーチャーの本城奈々子氏(以下、「」内コメントは同氏)は、実施の背景をこう語る。
「2025年に管理職の悩みと実態調査を行ったところ、管理職になって健康を損なったと回答した人が7割もいました。また、世の中では睡眠に関するサービスやアプリ、商品が増えている半面、働く人の間で不眠や眠れないといった悩みを聞く機会も増えています。そこで今回、睡眠と仕事をテーマに調査しました」
睡眠への関心が高まっているとはいえ、働く人の睡眠不足は、もはや「本人の努力」だけで解決できる範囲を超えつつある。調査では、寝不足の日が「週2?4日」と答えた人が38.8%、「週5?7日」と答えた人も31.7%に上った。週の半分以上、寝不足を感じながら働いている人が少なくないということだ。
もちろん、「睡眠時間くらい自分で管理すべきだ」という見方もあるだろう。例えば、夜遅くまでスマホを見ている人もいれば、動画やゲームで就寝時間が遅くなる人もいる。生活習慣の乱れが睡眠不足につながるケースは確かにある。
ただ、今回の調査で分かったのは、そうした個人の問題だけではなかった。寝不足の原因として最も多かったのは、「仕事時間の長さ・通勤時間の負担」と「仕事・人間関係のストレス」で、いずれも38.1%だった。
「寝不足の原因を聞いたところ、上位に並んだのは仕事時間の長さや残業、通勤時間の負担、仕事上のトラブルやプレッシャー、人間関係のストレスでした。生活習慣が乱れている、怠惰だから眠れていないというよりも、仕事の悩みから眠れないと感じている人が多かったのではないかと見ています」
寝不足は、必ずしも「だらしなさ」の結果ではない。実際には、真面目に働こうとする人ほど、眠れなくなっている可能性がある。
年代別に見ると、悩みの中身にも違いがある。20代では「仕事・人間関係のストレス」や「将来への不安・漠然としたメンタル不調・考え」がほかの年代より高かった。
「働き方やキャリアが多様化して、いろいろな選択肢を持ちやすくなったよい面はあります。その反面、自分の将来像が見えにくくなっている部分もあると思います。SNSで周りの状況が見えやすくなったことで比較してしまうことも増え、漠然とした不安につながりやすいのではないでしょうか」
30代では、仕事時間や通勤時間に加え、家事・育児の負担も重くなる。本城氏によれば、今回の調査で家事や育児などのケア負担が高かったのは30代だったという。
「お子さんが生まれて間もない時期でまだ小さく、育児の負担が大きい年代なのではないかと見ています」
20代は将来不安で眠れず、30代は仕事と育児に追われる。40代以降になれば、管理職や中間管理職として部下や組織全体を見る負荷が増す……。どの年代にも、その年代なりの眠れない理由があるのだ。
“年収1000万円の勝ち組”ほど眠れていない?
今回の調査でもうひとつ目を引くのが、年収別の傾向だ。年収が高い人ほど、睡眠と仕事の関連性に対する意識が高く、中でも年収1000万円以上の層では、睡眠がミス防止や成果、円滑な人間関係、職場の雰囲気に関わると考える割合が高かった。
稼いでいる人ほど、睡眠の大切さを知っている。だが同時に、稼いでいる人ほど眠りを削られやすい。なんとも皮肉な結果である。
「一概には言えませんが、年収が高い方は、それなりに負荷の高い仕事をされているケースが多い可能性が考えられます。役職者になると、自分のことだけではなく組織全体を見なくてはいけないので、残業時間が増えたり、休みの日でも仕事を回さなければならなかったりすることがあります」
加えて、高収入層にはほかにも睡眠に影響している要因がいくつかある。
「友人や同僚との付き合い、飲み会や会食についても、年収が高い方で多い傾向がありました。役職が高い方は仕事上の付き合いも増えますので、遅い時間になると睡眠時間に影響する可能性があります。また、資格取得やリスキリングで寝不足になっているという回答も高く、エネルギッシュに頑張っている分、睡眠時間を削っている面もあるのかなと感じました」
しかも、寝不足は気合いで乗り切れば済む話ではない。調査では、寝不足が仕事に与える影響として「仕事への意欲が湧かず、取りかかるまでに時間がかかった」が22.8%で最多だった。
続いて「注意力が散漫になり、ケアレスミスをした」「会議中やデスクでの作業中に、強い眠気に襲われた・居眠りをした」が、それぞれ21.8%となっている。
寝不足の人が増えればミスも増え、そのフォローで周囲の負担も増す。睡眠不足は、個人の体調不良にとどまらず、組織の悪循環を生む問題でもあるのだ。
それでは、企業側はどう変わろうとしているのか? 本城氏によると、求人の現場ではすでに変化が出ているという。
例えばマイナビ転職の求人でも、有給消化率や平均残業時間、プライベートの確保を前面に出す企業が増えている。
「求人情報でも、有給消化率が何%、平均残業時間が何時間といった数字を、かなり目につくところに出している企業様が多いです。社員のプライベートをきちんと確保していることをアピールし、求職者を獲得しようとする動きがあります。逆に言えば、求職者がそうした情報に反応しているからこそ、企業も休みやプライベートの充実を打ち出しているのだと思います」
ただし、制度を作ればすぐに解決するわけではない。勤務終了から次の勤務まで一定の休息時間を確保する勤務間インターバル制度は重要だが、現場で運用するには難しさもある。
「シフト制の飲食店などで、遅番勤務の翌日に早番勤務になると、本当に間がない状態になってしまいます。『勤務終了後にすぐに帰って寝ても6時間確保できるかどうか』という話になりますので、勤務間インターバル制度は健康を守るうえで意義のある制度だと思います。ただ、導入が十分に広がっているかというと、まだこれからという印象です」
特に飲食、医療、介護、交通など、現場で人が動き続ける業界では、誰かが休めば別の誰かが穴を埋めることになる。人手不足の職場ほど、そのしわ寄せは一部の従業員に集中しやすい。
だからこそ、単に「休みましょう」と呼びかけるだけでは足りない。評価制度、人員配置、業務量の見直しまで含め、休める状態を設計する必要がある。
「まだ、休むことを『迷惑をかけること』『サボり』と捉えるネガティブな価値観を持つ方もいると思います。しかし、休みをきちんと取れる状態にすることが、パフォーマンスを上げることにもつながります。休息も、成果を出すための戦略のひとつとして位置づけられると、企業にとっても従業員にとってもよい形になるのではないでしょうか」
寝不足のまま働き、ミスを増やし、人間関係を悪化させるなら、その我慢は職場全体のコストになる。いま必要なのは、長く働くことではなく、ちゃんと休んでも成果が出る働き方に変えることなのかもしれない。
(取材・文=西脇章太:にげば企画)
