ネトフリ配信『火垂るの墓』、2年目はnoteで「映画感想文」企画 今、感想を「書く」意義をネトフリとnoteに聞いてみた
8月15日は「終戦の日」。毎年8月は戦争を題材にした映画やアニメ、テレビ番組が数多く放送・公開され、日本人にとって平和を改めて考えさせられる時期となる。なかでも、戦争の悲惨さを伝える作品として長く語り継がれてきた作品の一つが、スタジオジブリのアニメ映画『火垂るの墓』(1988)だ。
近年、本作は配信を通じて世界の視聴者、そして新たな世代にも届けられる。2024年9月、Netflixで日本を除く世界190以上の国や地域に配信されると、清太と節子を待ち受ける過酷な運命や生々しい描写が注目され、「二度と見たくない傑作」として大きな話題を呼んだ。2025年7月には、海外での反響を受けて日本のNetflixにも登場。昨年に引き続き、今年も7月15日から配信が開始された。
配信2年目の夏を迎えた今年は、メディアプラットフォーム「note」にて、『火垂るの墓』を題材とした「読書感想文」ならぬ“映画感想文”企画が行われている。同映画に対する思い出や実際に見て感じたことを、文章、写真、マンガ、イラストなど形式を問わずNetflixが独自に募集するというものだ。
感想文といえば、夏休みの宿題の定番。今、『火垂るの墓』を「見て、書く」意義とは何か。企画に込めた思いや狙いについて、Netflixとnoteの担当者に話を聞いた。
「二度と観ない傑作」海外で配信され絶賛→日本でも配信開始
まず、スタジオジブリ作品は基本的に、日本でサブスク配信されていない。
海外では、2020年2月以降、ジブリ作品の海外配給(北米と一部アジアを除く)を担うフランスの配給会社「ワイルドバンチ・インターナショナル」とNetflixが契約し、世界約190か国でジブリ21作品の配信が順次スタート。2019年10月には米ストリーミングサービス「HBO Max」が、アメリカでの独占ストリーミング権を取得した。日本以外でのサブスク解禁が一気に進んだが、当初のラインナップには『火垂るの墓』が含まれていなかった。
2024年9月、他のジブリ作品から遅れて本作のNetflix配信が開始されると、1週間で合計150万ビューを記録し、Netflix週間グローバルTOO10(非英語映画)で初週第7位に。レビューサイトには、
〈悲劇と恐怖の中にあるささやかな日常の喜び、そして10代の肩にのしかかる大人の責任による圧倒的な混乱を力強く描き出す。美しくも胸が張り裂けそうな映画〉
〈心をえぐり、魂を揺さぶり、そして涙の海に沈める傑作。その強烈な印象ゆえに二度と観ることはないかもしれないが、決して忘れることはないだろう〉
など、深く考えさせられたという感想が数多く書き込まれ、またその反応が複数の記事で取り上げられた。
Netflixの広報担当者によれば、そうした海外での話題性が、日本国内での配信への強い後押しとなったという。
「昨年戦後80年の節目に“戦争のリアル”を描いた不朽の名作を次世代やより多くの国内メンバーへ届ける契機となったこと、また日本以外の国々での配信によって『日本でも』と望む声が増え、海外での反響を関係者の方々からも評価いただき信頼関係が生まれたことで、日本で初の配信が実現しました。
今年は2度目の国内配信となり、時代や国境を超えて受け継がれる『夏の文化的視聴体験』として、『火垂るの墓』を届けていきたいと考えています。夏が来るたびにこの物語と向き合い、対話するという大切な習慣を、次の世代へ絶やすことなく受け継いでいきたいという思いがあります」(Netflix広報担当者)
大人が『火垂るの墓』を「見て、書く」意義
Netflixとnoteはこれまでも、さまざまなNetflix作品に関する感想を集める共同企画「#Netflix感想文」を行ってきた。もともとは、日本においてNetflixがサービスを開始してから10周年を記念し、2025年9月に第1回を開催。その後、同年12月に「ネトフリ納め、ネトフリ始め」を合言葉に第2回を、そして「2026ワールドベースボールクラシック」の独占配信や、「BTS THE COMEBACK LIVE|ARIRANG」(2026年3月21日開催)の生配信に合わせ、今年3月に第3回を実施した。今年8月4日からは「夏語り2026」のお題で第4回の募集が始まっている。
感想文の対象作品は、お題に沿えば基本的に自由だが、『火垂るの墓』に関しては、Netflixが個別で募集をかけている。担当者は、本作を「見て終わり」ではなく、感じたことや考えたことを感想文(あるいは写真、絵など)の形で記すことには“特別な意義”があるとする。
「戦争体験の風化が懸念される今、大人が本作を通じて葛藤し、自らの言葉で語り継ぐ姿を見せることこそが、次世代との生きた『平和への対話』を生む起点になると思っています。
子どもの頃に『火垂るの墓』を見ると、清太や節子の視点で悲劇を受け止めますが、大人になってから改めて見ると『守る側・社会の構成員』として、自分自身の行動を振り返ることにもつながります。実際、noteに投稿された感想文には、今の時代にも通じる無関心の恐ろしさや、親戚の叔母さんの振る舞いを単なる悪として片付けられない複雑な胸中など、大人の視点ならではの深い内省が数多く綴られています。
客観的な『考察』ではなく、主観的な『感想』として自らの弱さや葛藤、現代社会の課題と結びつけるプロセスは、エンターテインメントを単に消費するのではなく、自己や社会と向き合う『鏡』として捉え直すような、新たな鑑賞体験の広がりを実感しています」(前同)
読了時間が傑出する「#Netflix感想文」
note上で展開される「#Netflix感想文」企画。note株式会社でブランドソリューションチームのリーダーを務める立花真里子さんが、取り組みの経緯を明かす。
「作品を『見た』だけでおしまいにするのではなく、感想を『書く』体験を習慣にしてくれたら、という思いがありました。Netflixで配信される作品の良さを知っている人はたくさんいらっしゃるので、そういうファンをきっかけに次のファンが生まれるような企画を作れたら、もっと作品の魅力が広がっていくのではないか。そういった循環を作りたいという思いが合致し、2社共同の施策がスタートしました」(立花さん)
反響は大きく、投稿数は合計で1万4000件(8/12時点)を超え、特に直近の3月の企画では企画史上最多の投稿が集まったと立花さんは語る。特徴的なのは、一つひとつの内容に「深さ」があることだ。
「書き手が楽しんでいるだけじゃなく、読み手も時間をかけて読みたくなるような感想が集まっていると感じます。実際、同じようなテーマの投稿と比べて、読了時間が中央値で4.2倍あるんです」(前同)
参加者アンケートには、
〈感想文イベントに参加してもう一度作品を振り返ることで、作品への理解がかなり深まった〉
〈作品を楽しむだけでなく、ハッシュタグで感想を共有する別の楽しみが加わったことで、よりNetflixで作品を見たい気持ちが強まりました〉
など、作品への向き合い方が変わったという声が寄せられる。
「『見る』で終わっていた体験が、感想を語り、交換・共有することで作品への理解が深まったり、新しい視点で作品を楽しむ行動変容が生まれたりしていることを実感しています」(前同)
「戦争の記憶を繋ぐ」noteが担う役割とは
誰かの体験や記憶を「書いて残す」ことは、noteが大切にしてきた役割の一つだ。
2025年には、TBS系列が主催する「戦後80年プロジェクト つなぐ、つながる」の一環として、TBS NEWS DIG Powered by JNN、Yahoo!ニュースと3社で連携し、戦争にまつわる記憶や体験を広く募る取り組みを展開した。
同プロジェクトは「第63回ギャラクシー賞」のフロンティア賞を受賞。これは放送界の未来を切り拓く挑戦を果たした番組、仕組みなどが顕彰される賞だ。特に戦争の愚かさや悲惨さを次の世代に届けることを目指し、報道機関だけではなく、プラットフォームもそれぞれの強みを活かしながら一体となって取り組んだ点が評価されたという。noteが参加した背景には、「戦後80年という節目を迎え、戦争の記憶を持つ方がどんどん少なくなっていく中で、何か社会のためにできることはないか」という思いがあった。
「文章だけにとどまらず、写真やイラスト、マンガ、データなど多様な表現を組み合わせられるnoteだからこそ、果たせる役割があると考えています。
例えば、ご自身の祖父母から聞いた戦争の記憶をコミックエッセイとして連載する方がいたり、全国の平和祈念館などが所蔵している資料を写真やデータとともに公開したり、資料館と連携した授業を行う大学の生徒がレポートとしてまとめたり。持ち主が亡くなれば、そのまま日の目を見なくなってしまうような当時の写真も、インターネット上に残していただくことで、後世に伝えていける。より広く、さまざまな人の声を拾っていくという意味でも意義があると思います」(同)
読者は1人でもいい 自分のためだけに書いていい
今回の『火垂るの墓』をテーマにした感想文募集もまた、「見た人が感じたことを自分の言葉で残す」という点で、その延長線上にある。noteで「読書感想文コンテスト」などのコミュニケーション企画・運営に携わる中野麻衣子さんは、「感想を書く」ことには、単に作品について語るだけでなく、自分自身の経験や人生を言葉にする意味もあると話す。
「自分のために残す、誰かに伝えたいなど、書く理由や形はさまざまですが、noteの感想文で特徴的なのは、自分の人生を重ねて言語化される方が多いことです。
例えばビジネス書でも、子育て中の親目線で読んで『子どもとのコミュニケーションにこう活かせた』と書かれる方がいる。障害にまつわる本を当事者の方が読んで、自身の経験と重ねながら、共感したことや感じたことを書かれる場合もあります。作品を通じて感じたことをきっかけに、ご自身のことをあらためて表現しているnoteは多いです」(中野さん)
そのうえで中野さんは、「読者は1人でもいいんだよ、自分のためだけに書いたっていいんだよということも伝えたい」と話す。
「たくさん読まれなきゃいけないという価値観になると途端にハードルが上がり、語るのが苦しくなることも。自分が書きたい、自分が読者として読みたいものを表現する、ということを大切にして、創作を楽しく続けてもらえたらと思います」(同)
時代を生きた人々の気持ちや、紡がれてきた歴史に思いを馳せる夏。noteに投稿されている「感想文」には、リアルで唯一無二のストーリーがある。
(取材・文=町田シブヤ)
『火垂るの墓』感想文キャンペーン
https://note.com/netflix/n/nd4dc30af4534
c 野坂昭如/新潮社, 1988
