【水槽】孤独の中で紡いできた「laptop pop」のルーツ 独自の制作スタイルと世界観の背景にあるもの
9月30日発売のサイゾー2026年11月号「P様の匣」に音楽アーティストの水槽が初登場。ディスコグラフィー(主にフルアルバム)を振り返りながら、今年7月にリリースされたデジタルシングル『CERAMIC SKIN』について語ってくれた。
本稿ではシンガーソングライター、トラックメイカー、DJとして活動する水槽の音楽性と活動のルーツに迫る。
タイアップも経て獲得したリスナー視点
――「p.h.」(原曲:SEVENTHLINKS)の「歌ってみた」(カバー)動画や、アニメ『BLEACH 千年血戦篇-相剋譚-』のエンディングテーマ「MONOCHROME」で水槽さんを知った人も多いのかなと。
水槽 2020年9月ちょうどオリジナル曲も作り始めたぐらいのタイミングで、100万回単位で再生回数が回った体験は「p.h.」がほぼ初めてでしたね。
――2024年頃からは他アーティストへの楽曲提供・コラボレーションも拡大させていますね。
水槽 「MONOCHROME」を収録する4thアルバム『FLTR』は、自分以外のクリエイターの視点など取り入れていきたいと考えていたフェーズに制作していたアルバムで、その点では1st?3rdアルバムとは、毛色がけっこう違います。タイアップのほかにも、他のクリエイターと一緒にEPやシングルを出しながら、アルバムとして全体のコンセプトや構成を後から考えるカタチをとりました。
――「水槽さんの曲は音だけで水槽さんの曲とわかる」というファンも多いようです。タイアップも含めて一貫した世界観やセンスを感じるというか。
水槽 あくまでも曲単位では自分が好きなことをずっと自由にやっていて、それを素直にアウトプットさせてもらっているので。最新曲の「CERAMIC SKIN」は、そんな4枚目のアルバムを経て、自分が本格的に楽曲制作に取り組み始めた頃の制作スタイルに改めて回帰したという感覚です。リスナーからは「こういう曲はもうやってくれないのかと思っていた」といった反応もありました。
――ファンとの向き合い方に自身の変化や成長は感じていますか?
水槽 作詞に関しては変化したかもしれません。そもそも1stの頃は人に聴かせる意識がけっこう希薄で、自分が抱える純粋なエゴをストレートに音楽へぶつけて、共感してくれる人がいたらラッキーという感覚だったので。当時の歌詞って文章としての意味的な理解とか全く重視していなかったです。
――それはだいぶ尖っていますね。
水槽 尖りすぎていて、歌い手の時もマイナーな曲をよく歌っていましたね。超有名なボカロPの曲を歌うことが再生回数を伸ばすセオリーなんですけど、完全に逆張りしていたので。
世界観のルーツはボカロと夜間撮影のカルチャー
――エレクトロ、ロック、ヒップホップなどを融合した「laptop pop」を標榜していますが、音楽性もジャンル横断的で活動内容・肩書きも非常に幅広いですね。
水槽 自分と同じようなことをしている人をあまり見かけないので、クラブやライブハウスに出演するようになった当初は、けっこう孤独でした。ひとりで家にこもって音楽を制作してデジタルで音源を出してきたということが、誇りでもあり孤独でもあり。そのジレンマはありましたね。
――そもそもユニットとかに憧れはあるんですか?
水槽 憧れはありますけど、絶対に向いていないなと。基本的に1曲ごとに奏者さんやMV作家・絵師さんも自分ですべてアサインしてチームを組むという感じで、「この場でみんなと大きなチームを作ろう」というマインドで最近は現場も挑んでいます(笑)。
――「laptop pop」と言う音楽性のルーツは?
水槽 やっぱりボカロ文化が一番大きいです。トーマという伝説的なボカロPが、最後に発表したコンセプトアルバムが、私のクリエイティブのひとつの原型になっていますね。あと、JR山手線の各駅をモチーフにした楽曲で構成した1stアルバムは、江ノ電の各駅名をモチーフにしたASIAN KUNG-FU GENERATIONの『サーフ ブンガク カマクラ』の影響もあります。
――未来の中華街にあるアパートを舞台にした2ndアルバムは、サイバーパンク作品からインスピレーションを受けているとか。
水槽 もっと言うと、音楽活動を始める前はフォトグラファーの勉強をしていて。ナイトシューティング(夜間撮影)の一種でルーフトッパーという、高いビルや屋上から写真を撮るイリーガルな文化があるんですが、その界隈はとくにサイバーパンク好きが多いんです。「ROOFTOP TOKYO」という曲も、東京の夜景を撮るストリートフォトグラファーの界隈に出入りしていた影響で生まれた曲ですね。
10代の頃は歌への想いを封印していた
――水槽さんって10代の頃とかはどんな学生生活を送っていたんですか?
水槽 学校では仲の良い友達とかも普通にいたと思うんですけど、あまり居心地の良い家庭ではなかったですよね。写真は祖母に買ってもらったカメラで学生の頃からよく撮っていました。歌も小さい頃からずっと好きだったんですが、ずっと音楽に対する想いは封印していて、写真とか他のことに手を出した感じです。
――わりと屈折したプロセスを経て歌い手やボカロPの活動を始めているんですね。
水槽 あくまで本業は歌という意識が強くて、作詞・作曲・編曲も歌に対して執着しすぎないように始めた行為みたいな感覚はあります。歌に執着しすぎると自分もツラくなって立ち行かなくなりそうだから、今も歌以外のことをプロデューサー的に色々やっているという。
――過去のインタビューで明かされていた、トラック→ドラムビート→最低限の楽器の打ち込み→歌いながら作詞・作曲という、特殊な制作プロセスにもリンクする話にも感じます。
水槽 トラックメイク・作曲で言うと、作りたい曲のイメージがけっこう具体的にあることが多いです。毎回1?6曲くらいのプレイリストを作っていて、そこから自分の好きな要素を持ってくるスタイルですね。
――ヒップホップ的なサンプリング音楽に近いセンスを感じます。
水槽:私自身はサンプリングって後から知ったのでリファレンスという言い方をしてきました。とくに初期の私の制作曲は自分の好きな楽曲の要素を少しずつキメラしただけですね。耳コピが得意で、アーティストの友人には転調が常識では考えられないと言われます。タイアップ曲などはあまり変則的なことはしないようにしていますが、「CERAMIC SKIN」も最初のサビと最後のサビが違うんです。
「生きづらさを手放したい人に書いている」
――「CERAMIC SKIN」の資料にあった、「激痛の幸福よりも見慣れたほうへ帰りたくなる」という水槽さんのコメントも印象的でした。
水槽 幸せになるために頑張らなきゃいけないなら、いっそ不幸な環境に浸かっていたほうがラクという気持ちになることって誰でもあるじゃないですか。とくに家庭環境が複雑な人とかって、そこにアイデンティティが縛られることも多いし、その状態から抜け出すには、ずっと目を逸らしてきた自分の欠陥や問題点にも向き合わないといけないから。
――クリエイターとかアーティストは特にそうかもしれないですね。
水槽 ボカロP含めてネットの音楽シーンには、そのままのあなたでいいと肯定してくれる楽曲も多いんですが、私は諦めずもがき続けている人に向けて常に曲を書いているところはあるかもしれないです。
――なるほど。水槽さんって感情を抑えた湿度低めな歌唱・歌声なので、パッと聴いたときの印象と歌詞の世界観がけっこう違う気もするというか。
水槽 アーティストの友人からは「暗い曲を聴きたい時、一番に思い浮かぶアーティスト」「でも冷笑系とかには意外と刺さらないじゃない?」とも言われたんですが、それはすごく腹落ちした感じがありましたね。
一人で家にこもり、パソコンに向かって音楽を作り続けてきたことを「誇りでもあり孤独でもある」と語った水槽。
ボカロ文化、東京の夜を撮るストリートフォト、幼い頃から好きだった歌。それぞれ別々に見えるものが、長い時間をかけて混ざり合い、誰にも似ていない「laptop pop」という音楽になった。
けれど、その音楽が向いている先は決して孤独ではない。
「そのままでいい」と慰めるのではなく、生きづらさを抱えながら、それでも現状から抜け出そうともがく人へ。水槽自身が孤独の中で音楽を作り続けてきたからこそ、その歌は簡単な救いを口にしない。
かつて封印していた「歌いたい」という気持ちは、いまや彼女を前へ進ませる原動力になっている。
『CERAMIC SKIN』で原点の制作スタイルへと立ち返った水槽の音楽は、これからも居心地のいい不幸から抜け出そうとする誰かの夜に、静かに鳴り続けるのだろう。
(文=伊藤稜)
水槽「CERAMIC SKIN」
不幸に浸らないひとたち。および自分が地獄に戻らないために作る。断固として不幸とかオワコン、歪みからしか何かを生めないと言うなら本物じゃない。これらすべて正論。でもたまに、激痛の幸福より見慣れたほうへ帰りたくなる。
音楽を作り始めて7年目になった。原点に立ち返って曲を作った。本来、自分の音楽は一部屋の絶叫で、それをきみが聴くのは奇跡でしかない。(水槽コメント)
【ライブスケジュール】
水槽 ONE MAN LIVE 2026 “REVOLTAGE” (BAND SET)
[日程]2026年11月7日(土)
[会場]大阪・Yogibo META VALLEY
[日程]2026年11月14日(土)
[会場]東京・Spotify O-EAST
