『オデュッセイア』好調――26年は50億超えの洋画続出、“豊作”の理由とヒットを生む「3つの要素」
世界中で大ヒット中のクリストファー・ノーラン監督最新作『オデュッセイア』。9月11日に全国公開され、10月1日時点で国内興行収入が19億円突破と好調で、映画ファンからは今年の洋画が“豊作”であることを喜ぶ声が上がっている。
本作はホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を原作に、トロイア戦争を終えた英雄オデュッセウスが故郷へ帰還するまでの壮大な旅を描いた物語。制作にあたって新型IMAXフィルムカメラが開発され、全編IMAXフィルム撮影(長編映画史上初!)を実現したことでも話題で、IMAX上映館では満席となる回が続出中だ。
海外では、7月15日に欧州や中東などで先行公開、7月17日に全米で本公開されると、 9月20日時点で全世界興収は17.2億ドル(約2786億4000万円/1ドル=162円換算、Box Office Mojo調べ)に到達。これは日本映画市場で歴代最高だった2025年の国内年間映画興行収入(2744億5200万円)を1作品で上回る数字で、同監督の最高記録(『ダークナイト ライジング』/2012、世界興収10億8542万ドル)を更新したほか、IMAX上映に限った世界興収は4億8500万ドル(9月8日発表、約768億2400万円)と、それまで最高だった『アバター』(2009)の2億7100万ドルを大幅に上回るなど、次々に“史上最高”を塗り替える快進撃を続けている。
2026年は50億円超えの洋画がすでに5作
そんな本作が日本で公開されると、初週の週末観客動員数ランキング(9月11日?13日、興行通信社調べ)で24万1000人と、1位の『ちいかわ』(27万1000人)に次いで初登場2位だったが、興収面では『ちいかわ』4億2700万円を上回る4億5200万円と1位を獲得。〈久々に極上の洋画をお腹いっぱい喰らった〉〈名監督、豪華俳優陣、圧倒的制作費でぶん殴ってくる良質なTHE洋画〉など、ファンの満足度は高い。
ファンから「久々に」という表現が出るほど、近年の日本は「洋画離れ」が叫ばれてきた。海外ではヒットしているのに日本では振るわなかったり、もはや日本で公開されなかったり……といった事象も珍しくなくなり、かわりに台頭するのは、言わずもがなアニメを含む邦画で、洋画のシェア率は2002年の72.9%をピークに、2025年は24.4%にまで下落。ここ5年で国内興収50億円を突破した洋画は、1月~12月公開作において
2021年:0本
2022年:2本(『トップガン マーヴェリック』『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』)
2023年:2本(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』)
2024年:1本(『インサイド・ヘッド2』)
2025年:3本(『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』『モアナと伝説の海2』『ズートピア2』)
と、年間2本程度で推移してきた。
しかし今年は、現時点で興収50億円超えを果たした映画8作品中、洋画が5作。ランクインした邦画は3作のうち2作品が100億円超と、金額上は日本発の作品が強さを見せるものの、本数だけなら洋画が存在感を示している。
【2026年、興収50億円を突破した洋画(興収成績は9月20日時点)】
『トイ・ストーリー5』(128億2000万円)
『Michael/マイケル』(85億2000万円)
『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』(79億3000万円)
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』(56億2000万円)
『プラダを着た悪魔2』(54億7000万円)
【2026年、興収50億円を突破した邦画(同)】
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』(146億6000万円)
『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』(137億円)
『キングダム 魂の決戦』(66億7000万円)
洋画が日本でヒットするための「3条件」
米アカデミー賞常連で、圧倒的な映像表現や緻密に組み上げたシナリオに評価が高いノーラン監督。日本でも、『TENET テネット』(2020/第93回米アカデミー視覚効果賞)が興収27億3000万円、『インターステラー』(2014/第87回米アカデミー視覚効果賞)が興収12億5000万円、『インセプション』(2010/第83回米アカデミー撮影賞、視覚効果賞、音響編集賞、録音賞)が興収35億円と、数々の作品をヒットに導いてきた。
『オデュッセイア』がこれらの記録にどこまで迫れるのか期待がかかるが、それにしてもなぜ、今年は洋画が好調なのか。業界事情に詳しい映画評論家・前田有一氏に見解を求めると、「一概に洋画の“復活”や“復権”とは言えない」と前置きしたうえで、ヒット作が「『勝ち組』に集中している」点を指摘する。
「日本人がよく知っているIP・シリーズの続編など、“説明不要”の洋画が今年はたくさん供給されていて、それぞれがきちんと結果を出している印象です。『トイ・ストーリー』、『マリオ』、『スパイダーマン』、『プラダ』の4作はもとより、『マイケル』も映画化こそ初ですが、マイケル・ジャクソンそのものが日本国内で高い知名度と人気がある。近年の50億円超えを見てみても、成績がいいのはシリーズものばかりです」(前田氏、以下同)
前田氏は、今の日本で洋画が好成績を収めるために、宣伝側が考える「3条件」を挙げる。
「まず、①日本人がそのIP・シリーズをよく知っていること。逆に言えば、馴染みのない作品はほとんど見てもらえない。海外でいくらヒットしていても、日本ではそもそもに親しみがないとコケてしまいます。次に、②『今』見に行く理由があること。期間・数量限定の来場者特典がある、ネタバレされる前に見たい欲を煽るなど、観客にとって『すぐに劇場へ行かなくちゃ!』と駆り立てられるような要素があることが大事です。
そして、③見た後で拡散したくなること。SNS時代、これは非常に重要です。SNSに何らかを投稿してもらうために、公式自ら内容の考察を盛り上げたり、見た人に“お題”を投げかけたりする。たとえば『トイ・ストーリー5』のプロモーションでは、〈あなたにとってトイ・ストーリーとは?〉〈あなたにとっての、好きな『トイ・ストーリー』の作品やシーンは?〉などと問いかけ、ユーザーの投稿を誘導しました。『プラダ2』も第1作の公開から20年以上経っていて、時代の変化や思い出話がしやすいですよね」
配信では味わえない「IMAX」という鑑賞価値
こうしてみると、日本における『オデュッセイア』は異色の存在にも思える。特段続編や人気シリーズの1作でないうえ、原典『オデュッセイア』についても、物語の内容まで広く知られる題材とは言い難い。それでも20億円、25億円を射程内に捉え、ロングヒットが期待できる理由は、「(本作の)体験価値にある」と前田氏は述べる。
「昨今、ヒットの必須条件でIPと双璧をなすのが『体験価値』。その映画のために劇場へ行く意味があるかどうかということです。そして『オデュッセイア』はIMAXという、まさに映画館でしか堪能できない作り方を大々的な売りにしている。初週、『ちいかわ』より動員数が少なくても興収が高かったのは、+600円?+900円のIMAX料金が追加されているからに他なりません」
実際、同作の観客単価は初日から3日間で1876円(興行収入÷動員数より算出)。ちなみに日本映画製作者連盟の資料によると、2025年の平均入場料金は1454円だ。映画の一般料金については、T・ジョイ系列が2000円→2200円(2025年9月1日~)、イオンシネマ系列が1800円→2000円(2026年6月19日~)等、大手シネコンで相次ぐ値上げを加味しても、単価1876円は平均より有意に「高い」。これはIMAXで見た人が多いという証明たり得るだろう。
「全編IMAXフィルムカメラ撮影なので、シアターの規格によって映像が見える範囲に差異が出てきます。通常の映画は多くが2.39:1(=横:縦)のところ、一般的なIMAXでは1.90:1と縦に広い。つまり、普通の上映では映らない部分までスクリーンで見ることができます。それよりさらに縦に広いフルサイズスクリーン(1.43:1)は、日本で『グランドシネマサンシャイン池袋』と『109シネマズ大阪エキスポシティ』しかなく、特にグラシネは公開3週目に入った今も予約開始とともに即満席状態です。こうしたIMAXならではの劇場体験は、絶対に配信で味わえない。だからこそ、『映画館で見ないと損だな』と思わせられるわけです」
多くの人が圧倒される「ノーラン映画」
世界的に評価されるクリストファー・ノーラン監督だが、日本市場で歴代級のメガヒットがあるかといえば、そうでもない。
今なお実写映画の国内興収トップを守る『タイタニック』(1997/277億円)のジェームズ・キャメロンや、『E.T.』(1982/135億円)、『ジュラシック・パーク』(1993/128.5億円)など100億円超えの大ヒットを生んだスティーブン・スピルバーグのように、飛び抜けた興行成績を収めた作品はない(ノーラン監督作の日本における最高興収は、前述『インセプション』の35億円)。
それでも「ノーラン監督作なら見る」というファンの信頼を獲得しているのは、「圧倒的な体験価値を得させてもらえるから」(前田氏)だという。
「ノーラン監督はCG嫌いで、とにかく実写にこだわるタイプ。たとえば『ダークナイト』(2008)ではシカゴにあった解体予定の病院を本当に爆破したし、『TENET』では強烈な映像を撮るためにジャンボジェットを購入して、格納庫に激突させました。
監督が“リアル”を追求して映像作品を仕上げることが日本でも徐々に知られるようになり、『ノーラン作品なら、映画館でしか味わえない体験をさせてくれるに違いない』という期待が勝つ。だって『TENET』なんて、とにかく難解だという話題が先行したのに、見に行く人が続出しました。普通、難しいと分かっていたら、わざわざお金を払って映画館まで行かないでしょう(笑)。ストーリーはともかく、スクリーンでしか味わえない圧倒的な映像美を堪能したい人が多かったということですよね。
ノーラン監督作品のヒットは、トム・クルーズが『トップガン』などで自らスタントに挑み、ヒットさせていることとも通じます。デジタル全盛の時代に、あえてアナログで“本当にやる”ことの価値が高まっている側面は大きい。そして制作陣の熱量がこもった『本物』の映像を浴びる体験をさせてもらえる場所として、映画館が機能するというわけです」
さて、“勝ち組”作品が快調な2026年。12月18日には、『アベンジャーズ/ドゥームズ・デイ』の日米同時公開も控えている。『アベンジャーズ/エンドゲーム』以来7年ぶりのシリーズ映画とあって、熱を帯びる本国では、公開3カ月前にして、すでに前売り券の売上が5000万ドル(約77億円)を叩き出しているとのこと。2026年の洋画の勢いは、年末まで続きそうだ。
(取材・文=町田シブヤ)
『オデュッセイア』
監督:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン
製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ
出演:マット・デイモン、アン・ハサウェイ、トム・ホランド、ロバート・パティンソンほか
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
c 2026 UNIVERSAL STUDIOS
photo by Melinda Sue Gordon c Universal Studios. All Rights Reserved.
https://odyssey-film.jp/
大ヒット上映中!2D(字幕/吹替)、IMAXR(字幕)、Dolby CinemaR(字幕)、4DX(字幕/吹替)、MX4DR(字幕/吹替)、35mm(字幕)の全6種9バージョンにて公開
