圧勝ソフトバンクと薄氷の阪神──同じ「連覇」でも何が違った? 2026年「連覇」を達成した両雄の決定的な違い
2026年のペナントレースは、両リーグの王者が異なる勝ち方を示した。
ソフトバンクは9月17日に3連覇を決め、阪神は10月3日に球団初のリーグ連覇を達成。10月7日終了時点で、ソフトバンクは91勝49敗3分、2位西武に11.5ゲーム差。阪神は79勝61敗2分で、全日程を終えた巨人との差は3ゲームだった。
同じ優勝でも、シーズンを通じて相手を押し切る力と、追い上げを受けながら首位を守る力では、その中身が違う。ソフトバンクの強さは主力の充実だけでなく、欠けた戦力を別の選手で補い、さらに上積みを生んだ点にある。一方の阪神は、中心選手の高い能力を土台としながら、離脱と救援陣の再編に向き合った。
両者の違いを、戦力の配置と運用から読み解きたい。
※編注:本記事のデータは2026年10月7日終了時点になります。
ソフトバンクの圧倒的な得失点差と野手力
ソフトバンクは143試合で707得点、452失点。得失点差はプラス255に達する。阪神は142試合で518得点、435失点、プラス83だった。リーグや球場、指名打者制度の違いがあり、数字をそのまま戦力差にはできない。
それでも、ソフトバンクが大きな得点の余裕をつくってきたことは明確だ。打線が追加点を取れれば、先発の一度の失点を取り返しやすく、救援投手を投入する際にも選択肢を持てる。打撃力は攻撃だけに作用するものではない。投手陣の起用を支え、翌日以降の戦い方にも余裕を与える。
もちろん、得点差があるからといって、すべての試合が楽だったわけではない。重要なのは、接戦を落とした後にも別の形で勝ち直せることだ。一つの勝ちパターンに依存しない構造が、長いシーズンでは大きな差になる。
栗原陵矢は40本塁打、118打点。正木智也は101試合で28本塁打を記録した。小久保裕紀監督は優勝会見で、正木の一番起用と、途中から据えた栗原の四番を打線の軸として振り返っている。長打力を持つ打者を、得点を生みやすい位置に配置したことが大きい。
正木が一番にいる意味は、初回から相手に長打への警戒を求められる点にある。先頭打者へ簡単にストライクを取りにいけず、慎重になれば四球で走者を出す。その後には近藤健介や栗原が控える。投手にとって、上位打線を一人ずつ切り離して処理しにくい構成である。
そこで柳田悠岐が128試合、打率.302、19本塁打、70打点という成績を重ねた。柳田一人に打線全体を背負わせるのではなく、若い打者の飛躍とベテランの復活が同時に進んだ点に、今年の強さがある。誰かが不調でも別の打者が得点を担える。世代交代を、主力の入れ替えではなく、打線の厚みへ変えたシーズンだった。
さらに、近藤は打率.309、32本塁打、108打点、101四球。出塁率は.432で、3割、30本塁打、100打点、100四球をすべて満たしている。NPB最強打者と評価したくなる理由は、どれか一つの能力が突出しているからではない。打つ力と、打たずに攻撃を続ける力が、高い水準で両立しているからだ。
打者を抑える側からすれば、長打を避けるために際どいコースを攻めたい。しかし近藤は、そこで無理に手を出さず出塁できる。ストライクを取りにいけば、安打や本塁打にする技術がある。相手が選んだ対応に応じて、自分の打席の価値を変えられるのである。
100打点には前を打つ選手の出塁が必要だが、100四球には後ろへつなぐ判断も含まれる。得点を決める打者でありながら、次の得点機をつくる打者でもある。こうした存在が中軸にいることで、ソフトバンクは本塁打だけに頼らず、攻撃を継続できる。
そして、周東佑京は30盗塁に対して盗塁刺5。盗塁企図に占める成功率は.857だった。その価値は、盗塁数だけにとどまらない。出塁後に次の塁を狙える選手がいることで、単打が得点へ結びつく可能性が広がり、守る側は走者への対応も求められる。
中堅守備でも、広い範囲をカバーする役割は大きい。長打力のある打者を並べても、外野の守備で失点を増やせば優位は薄れる。周東の守備走塁は、打線が生み出した得点を勝利へつなぐための土台になる。
しかし、守備で防いだ得点を印象だけで数量化することはできない。ここで評価したいのは役割の組み合わせだ。長打を担う打者、出塁を担う打者、走塁と守備で支える選手が共存することで、得点力と失点を防ぐ力を両立させやすくなる。
モイネロ不在でも生まれた二桁勝利4人
投手陣では、モイネロの今季初登板が8月までずれ込んだ。それでも大津亮介、前田悠伍、松本晴が各12勝、上沢直之が10勝を挙げた。モイネロ自身も復帰後は7登板で6勝、防御率0.76を残している。
ここで注目すべきなのは、昨年と同じ投手が同じ役割を果たしたわけではないことだ。小久保監督は、前田や上茶谷大河を救援から先発へ回した経緯にも触れている。エースの復帰を待つだけでなく、別の投手に機会を渡し、その結果を次の登板へつなげた。モイネロの復帰が穴埋めではなく、終盤の上積みになったのは、その前に投手陣をつくり直せたからである。
救援でも、右肘の手術で離脱した藤井皓哉の不在を抱えながら、杉山一樹が35セーブ、松本裕樹が32ホールド。津森宥紀、ヘルナンデス、鈴木豪太も防御率1点台を記録した。一人の代役に負担を集中させず、複数の投手で重要な回を担えることが、継投の安定につながった。
小久保采配に余力が感じられるとすれば、それは精神的な余裕を外から推測する話ではない。主軸を固定できる打線と、状態に応じて役割を変えられる投手陣を持ち、選択肢を増やしたという意味である。采配の幅は、監督の発想だけでなく、任せられる選手の数によっても決まる。
阪神の攻撃の中心は、近本光司、中野拓夢、森下翔太、佐藤輝明、大山悠輔の5人だった。ただし、その顔ぶれが健在であることと、1年を通じて全員が機能することは別である。近本は左手首の骨折で約2カ月半離脱し、100試合に満たない出場にとどまった。
中野は打率.288、大山は20本塁打、85打点。近本も復帰後を含め打率.307を残している。個々の能力が大きく失われたわけではない。それでも、出塁と走塁を担う一番打者が長期間欠ければ、中軸へ走者を渡す形は変わる。主力5人の名前だけを見て、昨年と同じ戦力が常にあったと考えるべきではない。
優勝争いが接近した要因を、監督の判断だけへ集約するのも適切ではない。阪神は巨人との直接対決で16勝8敗1分と勝ち越す一方、交流戦では6勝12敗だった。競争相手には優位に立ちながら、別の相手から十分に貯金をつくれなかった。この違いも、僅差になった背景として押さえたい。
また、中心選手を見ると、森下は打率.292、35本塁打、84打点。佐藤は打率.308、39本塁打、106打点で、二人とも高い出塁率を記録している。本塁打だけでなく出塁も伴う右の3番と左の4番は、令和のNPBでも最高峰と呼べる組み合わせだ。
森下を避けても佐藤が待ち、佐藤への勝負を慎重にすれば大山につながる。阪神の中軸は、相手の継投にも難しい判断を迫れる。だからこそ、重要なのは二人の前後である。上位で走者を出せるか。中軸で仕留め切れなかった機会を、後続が得点へ変えられるか。強い3番、4番を持つほど、打線全体でその打席を生かす設計が必要になる。
二人の本塁打は合計74本で、チーム125本の約59%を占める。これは強みの大きさであると同時に、相手が対策を集中させる場所でもある。短期決戦では、二人が歩かされた後にどこで得点するかまで準備しておきたい。
藤川監督の投手運用と問われる接戦での選択肢
先発は高橋遥人が16勝、村上頌樹と才木浩人が10勝。村上は180回3分の1を投げて防御率1.85、高橋も159回で1.87と、質と量を両立した。阪神が苦しみながらも首位を守れた土台には、接戦へ持ち込んだ先発陣がある。
石井大智の出遅れで懸念されたリリーフ陣も、工藤泰成、木下里都、ドリスが支えた。工藤は57登板で防御率1.05、木下は45登板で1.58、ドリスは53登板で19セーブ。8月から工藤が抑えに定着し、木下は走者を背負った場面でも起用されてきた。
ここは藤川球児監督の成果として評価すべきだろう。昨年の勝ちパターンを待つだけでなく、新しい選手へ重要な役割を渡し、優勝に必要な形をつくった。若い救援投手が台頭した事実を無視して、采配の引き出しが少ないと一括りにはできない。
それでも、日本一を目指すうえで検証したいのは、通常の勝ち方が機能しない試合への対応である。昨年の日本シリーズで阪神は1勝4敗。第3戦から第5戦は、いずれも1点差で敗れた。この結果だけで監督の能力を断定できないが、競り合った局面で何を変えるかは、今年も重要な論点になる。
象徴的なのが昨年の第4戦だ。小久保監督は5回無失点、59球の大津に代えて、6回の好機で近藤を代打に送った。近藤の適時打で得た3点目が、結果的に決勝点となった。好投する先発を残す価値と、その場で追加点を取る価値を比較し、勝負を動かしたのである。
藤川監督に必要なのも、常に早く動くことではない。中軸の前で送るか強攻するか、最も厳しい打順に最良の救援投手を当てるか、予定した役割をどこで変えるか。通常の形を守る判断と、変更する判断を使い分けることだ。監督2年目で接戦の優勝争いを制した経験を、次の選択肢へ変えられるかが問われる。
ソフトバンクは、欠けた戦力を補いながら、勝ち方を増やした。阪神は、強い中軸と先発陣を維持し、リリーフを再編して連覇へ届いた。両者に共通する次の課題は、持っている戦力を、最も価値の高い局面で使い切ることにある。
ペナントレースの差は、そのまま短期決戦の結末ではない。しかし、その差を縮めるには、主力への信頼に加え、相手が最も嫌がる選択を準備しておく必要がある。
(文=ゴジキ)
