映画『バイオハザード』、4度目の正直でファン歓喜! 迷走の歴史とゲーム実写の新たな「正解」
映画『バイオハザード』が10月9日に日本公開され、週末3日間で動員35万6000人、興行収入6億2700万円と好調発進した。本作はCAPCOMが1996年から発売する同名ゲームの再々々実写シリーズ化。その歴史は迷走続きだけに、原作ファンは警戒しまくりだった。期待すると、裏切られたときのダメージが大きい。とはいえ気になる。恐る恐るフタを開けたら「サイコー!」と絶賛があふれれ、なんとも幸せなスタートを切った。
アメリカではシリーズ最高興収を更新
アメリカでは9月18日に封切られると、10月4日時点で興収1億1600万ドル超(約183億円)と、北米における『バイオ』シリーズの歴代最高興収(『バイオハザードⅣ アフターライフ』/2010、6012万ドル)を大きく更新。数字だけでなく、大手レビューサイト「ロッテントマト」では批評家96%、観客91%の満足度で、名実共に「シリーズ最高傑作」の座を確かなものにしつつある。
原作ゲームは世界累計販売本数2億1300万本を突破する巨大IPで、実写版シリーズは過去に3回製作。2002年~2016年までに全6作を数えるミラ・ジョヴォヴィッチ主演版(以下、ミラ版)、2021年に“原作に忠実な映画化”を掲げた『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』が劇場公開、翌2022年にはNetflixにて独自のドラマシリーズが配信された。
そして今作は、世界興収2.7億ドル(約427億円)の大ヒットホラー映画『WEAPONS/ウェポンズ』(2025)のザック・クレッガー監督がメガホンをとった。自らも原作ゲームファンだという監督が主人公に据えたのは、原作にはいないブライアンという冴えない男だ。だらしない体で、いかにも弱そうな「ただの配達員」。「もし、一般人が『バイオ』の世界に放り込まれたらどうなるか?」という疑似体験を味わわせることに主眼を置いた。
原作ファンを置き去りにしてきた実写版『バイオ』
そんな新作『バイオ』を前に、原作ファンが慎重になったのも無理はない。実写版『バイオ』は、毎度「なんか違う」を繰り返してきたためだ。
初の実写化となったミラ版は、ゲーム本来のサバイバルホラー感が薄く、独自のストーリーと設定で主人公・アリス(ミラ)が無双するアクション路線。これが大ヒットしたがために、『バイオハザード』といえばミラ、というイメージを持つ人も多いだろうが、そもそも原作にミラのキャラはない。あくまでもゲームが先、映画が後発であるがゆえに、いくら興収がよくとも原作ファンは「コレジャナイ」と複雑な気持ちを抱えたものである。
そうしたファンとの距離を埋めるかのように、2021年、今度は「原作回帰」を銘打った実写第2弾、『ラクーンシティ』が製作された。しかし評価は芳しくなく、興収面でも苦戦を強いられた。さらに実写第3弾となるネトフリ版はシリーズ展開を前提に作られたものの、「ロッテントマト」における満足度は批評家54%、観客26%とそのズタボロさを象徴し、1シーズンで打ち切られてしまった。
三度目の正直ならず……。原作を無視したら原作ファンの反感を買うし、原作に寄り添ったつもりになればなったで爆死。揺れる実写『バイオ』の歴史を、ゲーム・アニメ誌の元編集者でライターの多根清史氏と共に振り返る。
“原作レイプ”批判も、シリーズ物の定説を覆した「ミラ版」
まず、ミラ版は興行面でいえば大成功だった。全6作の世界累計興収は約12.3億ドル(約1943億円)に達し、2012年には「最も成功したゲーム原作映画シリーズ」としてギネス認定もされた。
【ミラ版、日本/世界の興収一覧】
1. 『バイオハザード』(2002)日本興収:23億円/世界興収:約1億298万ドル
2. 『バイオハザードII アポカリプス』(2004)日本興収:27億円/世界興収:約1億2934万ドル
3. 『バイオハザードIII』(2007)日本興収:29億円/世界興収:約1億4771万ドル
4. 『バイオハザードIV アフターライフ』(2010)日本興収:47億円/世界興収:約3億22万ドル
5. 『バイオハザードV リトリビューション』 (2012) 日本興収:38.1億円/世界興収:約2億4015万ドル
6. 『バイオハザードVI ザ・ファイナル』(2016) 日本興収:42.7億円/世界興収:約3億1224万ドル
同ゲームのファンでもある多根氏。「原作レイプ」との批判もあったミラ版について、「ビジネスとしては正義」だとする。
「『バイオハザード』の名前を借りて好きに作ったら、興収的には大成功した。日本でもシーズンを重ねるごとにおおむね右肩上がりで、その時点で映画としては『正義』なわけですよ。
一般的にストーリー性のあるシリーズものは、徐々に興行成績が下がっていきがちです。しかしミラ版は、その定説を覆した。理由として、製作側が原作の設定をあまり引き継ぐことなく、(6作あるが)前作との整合性も重視していなかったことは案外大きいんですよね。だからこそ、どこから見始めても大丈夫なシリーズで、結果的に原作ゲームとは無関係にミラ版そのもののファンがついた。興行面だけを考えるなら、必ずしも原作に近づける必要はないということを証明したともいえます」(多根氏、以下同)
原作要素をぶち込んだだけの『ラクーンシティ』
そうしたなか、次なる実写版として『ラクーンシティ』が2021年に作られた。同作を手がけたのは、同ゲームファンを公言するヨハネス・ロバーツ監督。これでミラ版に苦い顔をしていた原作ファンの心も満たされるかと思いきや、大きく裏切られることになった。多根氏は、「『原作に忠実』を履き違えていた」と指摘する。履き違えていた、とは?
「ゲーム版『1』『2』に登場する洋館や警察署、主要キャラクターを含めて、たしかに原作の要素はたくさん出てきます。けど、厳密に言えば『1』と『2』は舞台も時系列もあまりつながっていないんですよ。それを映画では一緒くたに描いてしまった。ビジュアル的にはいくら忠実だとしても、話を混ぜちゃったら『なんか違う』ものになるでしょ(笑)。
それに、ゲーム版のクリアまでは、どれだけ最短でも『1』『2』それぞれ5?10時間かかるんです。単純計算で10?20時間分の壮大なストーリーを2時間の映画尺に収めるのに、そもそも無理がある。どうしてもダイジェスト的になってしまうのに、あろうことか原作の人気キャラを余さずぶち込んだ。当然一人ひとりの“持ち時間”はすごく短くなり、初見の人は、次から次へと出てくるキャラを『誰これ?』と思っているうちに終わっちゃう。一方で原作ゲームに愛着がある人は『なんで俺の好きなキャラがこんだけしか出てこねえんだ』となる。端的に言えば、映画の作り方が下手っていう……(呆)」
ファンの機嫌を取るつもりが、散々だった『ラクーンシティ』。多根氏は「原作ゲームファンも、これを見て『ミラ版ってすごかったんじゃね?』と評価を上げたのでは」と語る。
皮算用が裏目で打ち切り、ネトフリ版「バイオ風の何か」
いくら酷評が吹き荒れようと、『バイオハザード』を実写化したい界隈は諦めない。2022年にはNetflixで実写ドラマ版『バイオハザード』が配信されたが、多根氏は「これは本当にひどかった……」となえた表情を隠さない。
「キャラクターの生い立ちや性格がまるで違っていて、名前しか一緒じゃないんですよ(笑)。原作にない巨大なクリーチャーがいきなり出てきたりするので、オリジナル世界が展開されるのかと思ったら、そうでもない。ゲーム内で起きたことは、それはそれで過去の出来事として扱われるので、『どっちやねん』っていう。
物語の芯も見えなかった。主人公は、最初はたくましく生き延びようとする人物のように描かれるんですけど、行動の軸はかなりブレている。感情移入する以前に、『この人をずっと見ていたいか?』というところで引っかかってしまう。
とはいえ一応、初動の数字自体は良かったんですよ。配信という視聴ハードルの低さもあり、とりあえず見てみようという人は多かったのでしょう。でも、本当に初動だけだった。そのあとが全く続かず、視聴者から見離されてしまった」
多根氏は、敗因として「原作との“距離の取り方”の中途半端さ」を挙げる。
「ゲーム版のタイムラインは押さえておきたい。でも同時に、新しい『バイオ』も作りたい。推測ですけど、制作側としては『原作世界を広げながら、新しいキャラクターやクリーチャーを加えて、これからの新たなバイオのベースにする』という考えがあったのかもしれない。シリーズものの新作を作るときにありがちな話で、元のファンを確保しつつ、新規ファンも取り込みたいという皮算用があったんじゃないか。
ただその構成が整理し切れてないまま、結局、新しいものをあれもこれもと詰め込んでいったせいで『これ、バイオなの?』という要素が増え、何を見せられているのかとファンの困惑を呼んでしまった。バイオではなく、『バイオ風の何か』だという批判は大きい。中途半端に原作の物語と結びつけようとするから難しくなる」
4度目の正直! まさかの「正解」登場でファン歓喜
何度も実写化される背景には、莫大な版権ビジネスに群がる企業の多さが透けて見える『バイオ』。大人の事情もある一方で、多根氏は今回の新作を「やっと“まとも”なものが出てきたと受け入れられるのでは」と見る。理由は、大きく2点だ。
「まず、製作サイドにゲームの映像化を手がけるソニーの製作部門『PlayStation Productions』がきちんと入っていること。もう一つは、舞台をある程度絞ったうえで、ゲームのメインキャラを物語の軸にせず、たまたま事件に巻き込まれた一般人を主人公にしたこと。これはいいアイデアだと思いますね。
ゲームの主人公を出したら、どうしても原作ストーリーの時系列をがっつり追わなきゃいけない。ただ、原作を知らない人には訳がわからないし、ゲームをちゃんと遊んでいる人からすればツッコミどころも多くなる。とはいえ忠実すぎると、『だったらわざわざ映画を見なくてもいい(ゲームをやればいい)じゃん』となる可能性もある。
なので、“原作ゲームの世界観をベースに、オリジナルキャラクターがストーリーと無関係に入り込んでいく”という作り方は、数少ない『正解』の一つかもしれませんね。何の力も持たない一般人がラクーンシティの地獄に踏み込んだら、震え上がるか逃げるしかない。その姿を、さらに映画として外側から見れば、リアクション芸を楽しむことになるのでは……と思っていたら、本当にその通りの大好評ぶりですね(笑)」
「狩野英孝の実況っぽい」が示すもの
物語の進行とともに武器が徐々に強力になったり、極限の選択を迫られたりと、実際のゲームプレイを意識したような演出が盛り込まれた本作を見て、ゲーム実況のリアクションが人気を博すお笑い芸人・狩野英孝(44)の姿を思い出したファンも多数。〈バイオハザードの映画、感覚としては狩野英孝のバイオ実況見てるのに近かった〉というXのポストは251万表示と大きな共感を集め、狩野本人や公式も反応した。
本作が原作ゲームそのままだとは言い難い。しかし、観客を「ゲーム体験」に没入させるという核の構築と演出は、原作ファンをうならせる。
「売上規模を『成功』とするなら現時点でミラ版が一番“正解”ですが、カプコンとしては、やはり原作であるゲームへ誘導したいでしょうし、ある程度はゲームの要素を映画から感じてほしいところです。一般人が主人公であれば、その人なりに生き延びるさまを最優先に描きつつ、必要に応じて原作の出来事・キャラクターをサブ要素として出せる。
今回の『バイオ』は、原作のストーリーからは自由になり、“体験”を映画にするという道を選び、ファンを納得させた。大切なのは『物語を完璧に再現できているか』ではなく、『世界観がちゃんと再現されているか』。それにようやく成功しているのでは」
ストーリーやキャラの再現度ばかりに縛られがちな「原作に忠実」の固定観念を覆した本作。既存ゲームファンも、ゲーム未経験者も楽しめる作品に仕上げた功績は大きい。
(取材・文=町田シブヤ)
