講演録「今こそ多くの人に」=上皇后さまと親交の末盛さん
上皇后さまは皇后時代の1998年、国際児童図書評議会(IBBY)の大会でビデオ講演された。少女時代の読書の思い出や児童文学と平和について、日本語と英語で収録した講演録「橋をかける」は他の8カ国語でも翻訳出版され、読み継がれている。出版した絵本編集者で、長年親交のある末盛千枝子さん(85)=岩手県八幡平市=は「世界各地で戦争や紛争が相次ぐ今こそ、多くの人に再度読んでいただきたい」と話す。 98年9月、インド・ニューデリーで開催されたIBBY世界大会。ビデオ上映された基調講演で、上皇后さまは読書について「ある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました」「人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました」と英語で述べた。 上皇后さまは童謡詩人まど・みちおさん(2014年死去)の詩の英訳などにより、IBBY側から基調講演を依頼され、大会に出席するはずだった。だが、98年5月のインドの核実験を受け、訪問は中止に。末盛さんによると、講演原稿を見た元IBBY会長の島多代さん(17年死去)と末盛さんが「何とかして大会に送れないものか」と考えて放送局に協力を求め、皇居・御所で収録された。 末盛さんはテープを預かり、「祈るような気持ち」で現地へ。「まるでミッション・インポッシブルという映画のようだった」と回顧する。当日は時間の都合で削られた箇所もあり、大会後、「初稿に戻したい」と書籍化を決意。戦時中の日本は英語教育を「禁止」していたとの記述など、42カ所に注釈を付け、出版にこぎ着けた。 本の完成後、上皇后さまが収録時に胸に着けていたのは両親からもらった麦の穂のブローチだったと知り、驚いたという。「心の内はきっと不安で、ご両親に守っていただきたかったのでは」と推し量った。 上皇后さまは02年、スイス・バーゼルでのIBBY世界大会に出席し、講演した。歴代皇后初の単独外国訪問で、末盛さんは「旧知の人も多く、本当に楽しそうにされていた」と話す。長年の親交を「自分の中だけにしまっておくのはもったいない」と思い、19年には著書「根っこと翼」を出版。上皇后さまの助言も得たといい、「二人羽織のようだった」と笑顔で振り返った。
