「就職して働くのがバカらしいなと思ってしまった」――“パパ活”をやめたいのに続けてしまう20代女性の苦悩
経済的に余裕のある年上男性と食事やデートをし、その対価として金銭や物品を受け取る行為は、一般に「パパ活」と呼ばれている。
食事やデートのみで違法となるわけではないが、性的関係を伴うケースや既婚者との関係では、状況によっては民事上の損害賠償(慰謝料)請求や、その他の法的トラブルに発展する可能性がある。
また、既婚者が配偶者以外と肉体関係を持つ「不貞行為」は法定離婚事由にあたり、離婚や慰謝料請求へ発展するリスクもある。
さらに、食事やデートだけでは終わらず、好意を抱いていない相手と性的関係を重ねることで精神的な負担を抱えたり、関係のもつれからトラブルや犯罪被害につながったりするケースも報告されている。
それでも、なぜパパ活を続けてしまう女性がいるのだろうか。
「通常のパパ活」だけではなくSMも
「思春期の初め、性への目覚めの中で小さなボタンの掛け違いが起こり、それがその後の性との向き合い方に影響を与えてしまうことがあります」
そう語るのは、東京・高円寺にある「円メンタルクリニック」の院長で、精神科医の川手恒太さんだ。
実際、思春期のある出来事を境に、性と人間関係が複雑に絡み合うようになった女性がいる。愛知県出身の土屋まりこさん(24歳・仮名)だ。
彼女は現在、「通常のパパ活」に加え、男性を性的に責める一風変わったパパ活でも金銭を得ている。月に何度もさまざまな男性と会い、それぞれが希望する方法で性的な欲求に応えている。
そんな土屋さんと性との関わりは、思春期までさかのぼる。
「子どもの頃から電動歯ブラシを股間に当てたりして、性への欲求と探究心は強かったと思います。そして、中学3年生の時にセックスに興味がありすぎて、2人の男友達と遊んでいるときに、裸になったり、相手の体をいじったりしてからかってみたんです。そしたら彼らもだんだん興奮してきて、おかしなことになってしまいました」
全員にとって初めての経験だったが、インターネットで見たAVの記憶を頼りに、性行為に至ったという。
ところが、この出来事を境に学校生活は一変した。
「休み明けに学校へ行ったら、空気が変わっていました。あの日のことを男友達2人に学校中に言いふらされていて、『ヤリマン』みたいな扱いを受けたんです。陰口を言われて、女子たちからも無視されました。そのまま友達もいなくなったので、毎日、空気のような存在を演じていました」
勉強しかすることがなくなり、地元から少し離れた進学校に進んだ土屋さん。高校に入ると、爬虫類専門のペットショップでアルバイトを始めた。そこで40代の店長と交際するようになったが、後になって店長には妻子がいることを知った。
「店長はSMの趣味がある人だったんです。バイトが終わるとホテルに行くような日々だったのですが、ある日、ホテルで店長に縛ってもらったんです。そしたら謎の高揚感があって、どんどんSMの世界にのめり込んでいきました」
やがて、店長から求められる行為もエスカレートしていった。
「『今日は友達がたくさん来るから』と言われて、言われるがままいつものホテルに行ったところ、男性が5人待ち構えていて、襲われました。店長は椅子に座ってその様子を見て、動画を撮っていました。『どうしてこんなことされなきゃいけないんだろう』と思いながらも、興奮している自分がいました」
さらにある日、店長のスマートフォンを勝手に触っていた土屋さんは、衝撃的なものを目にしてしまう。
「頻繁に動いているグループLINEがあったので開いてみたところ、私の盗撮動画が共有されていました。『なんなんだこれは』と店長に問い詰めたら、『NTR(寝取られ)サークルに入っている』と言われました。以前、ホテルに呼ばれた友達も、このサークルの仲間だったようです」
自分の動画が知らない男性たちの間で無断共有されていたことには、さすがにショックを受けたという。
「でも、店長に言いくるめられて、『性の世界はそんなものなのかな』とカルチャーショックを受けた記憶があります。それでも別れることなく、店長との関係は続きました」
出会い系サイトを通じて始めたパパ活
高校卒業後、大学進学を機に上京すると、店長との関係は自然消滅した。
無理を言って実現した上京だったため、親に生活費を頼ることには抵抗があった。そこで、自分で生活費を稼ごうと始めたのがパパ活だった。
「出会い系サイトを使ってパパ活を始めました。付き合っていた店長への復讐心というのもあったかもしれません。18歳ということでかなり人気が出ました。定期的に会う人も何人もできて、それだけで生計を立てていました。今でも関係が続いている人もいます」
しかし、パパ活だけで生活していると、精神的に追い詰められそうになった。そこで土屋さんはアルバイトを始めるのだが、選んだのはSMバーだった。高校時代に知ったSMの世界を、東京でも体験してみたいという気持ちがあったという。
それまで土屋さんは「自分はMだ」と思っていた。しかし、SMバーの店長から「顔がSっぽいから、女王様のほうが人気が出る」と勧められ、初めて「責める側」に回った。
「バーでの仕事は、お客さんを縛ったり、鞭で叩いたり、上に乗ったり、お馬さんみたいに歩かせたり……。それまで自分が責める側になるなんて思ってもみませんでした。でも、ちょっとやってみたところ、M側とは違うワクワク感や楽しさがありました。その後、オーナーがSMクラブを運営していると聞いて、そこで働くことにしました」
「昼職」として働くバカらしさ
SMクラブで働く中で、土屋さんはそれまで以上に、人間が抱える性への欲望を目の当たりにしたという。
「台本を持ってきて、『このストーリー通りにやってくれ』という指示もあったりして、役者になったような気分でした。普段はちゃんと働いている人も、裏では性的にこじらせていて、それを私が満たしてあげる。かなり楽しい仕事です」
だが、大学卒業を機に、SMの世界からはいったん足を洗った。「きちんと昼職で働こう」と考え、一般企業に就職したのだ。
「だけど、就職して驚いたのですが、ちゃんと働いているのに給料が安いんですね……。SMの仕事をしていた時のほうが、少ない労働時間で多く稼げていました。そのため、就職して働くのがバカらしいなと思ってしまったところもあります」
昼の仕事だけでは十分に稼げない。しかし、SMの仕事だけで生活すれば、社会から切り離されたように感じる。その間を行き来しながら、現在もパパ活やSMの仕事を続けている。
今は、女王様時代に知り合った男性と、店を通さずに会っている。土屋さん自身、「相手から切られない限り、人間関係はずっと続くタイプ」だという。
「連絡が来たら断らないスタンスでやっています。今はフリーのSM女王様として会う人と、パパ活を始めた18歳の頃から付き合いがあるおじさんと定期的に会っています。こっちは性行為ありですね。おかげで、きちんとした彼氏ができても、私の生活を受け入れられずに、すぐ別れることになっちゃうんですよね」
土屋さん自身、現在の生活をずっと続けたいと考えているわけではない。「普通の暮らし」をしたいという気持ちはある。それでも、金銭的に苦しくなればパパ活へ戻り、昔から続く男性との関係も切ることができずにいる。
前出の川手院長は、土屋さんが歩んできた経緯についてこう指摘する。
「自分の性的な行動をきっかけに友人関係が壊れ、学校で孤立してしまった。その経験が、その後の人との関わり方にも影響しているのかもしれません。性を介した関係が、人とつながるためのひとつの手段になっていった可能性もあります」
性はいつしか、快楽だけでなく、人とのつながりや仕事、生活を支えるお金とも結びついていった。土屋さんが望む「普通の暮らし」へ戻るためには、何が必要なのだろうか。
(取材・文=山崎尚哉)
