安倍元首相銃撃事件・判決要旨
安倍晋三元首相銃撃事件で、山上徹也被告に無期懲役を言い渡した21日の奈良地裁の裁判員裁判判決の要旨は次の通り。 【手製銃が銃刀法に抵触するか】 事件で使用されるなどした手製銃は金属性弾丸を発射する機能があり、その威力が人を殺傷するに足ると明らかに認められる。手製銃は銃刀法の「拳銃」や「砲」に該当する。 弁護人は銃刀法の発射罪が成立する場合、加重所持罪は成立しないと主張するが、拳銃を発射する行為と所持する行為は別で、両罪が成立する。 【量刑理由】 被告は犯行現場付近で元首相の至近距離に近づき、上半身を狙って手製銃を2回にわたり発射したと認められる。隙を狙って背後から元首相を襲撃するなどした犯行態様は卑劣で、極めて悪質だ。元首相が死亡した結果は重大だ。元首相の妻が大きな喪失感を抱えていると述べたことも理解できる。 被告は約300人の聴衆が密集する犯行現場で、2回にわたって複数の弾丸を発射した。公共の静穏や安全を大きく脅かすもので、極めて危険で悪質な犯行であることは明らかだ。元首相以外に弾丸が当たる可能性は十分想定され、周囲に居合わせた人々に強い恐怖を感じさせた点も軽視できない。 【動機と経緯】 被告は2022年6月上旬に仕事を辞め、手製銃などの製造費用に多額の借金を抱えるなど、経済的にも追い詰められていた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)幹部がいつ来日するか分からず、自身の生活が逼迫(ひっぱく)する状況で、元首相を襲撃することが可能と認識し、来日を待って何もできなくなるよりは今やる方が良いなどと考え、襲撃を決意した。 被告は元首相のことを旧統一教会に影響力がある人物と考えていた。21年ごろ、旧統一教会関連団体の行事に元首相がメッセージを送った動画を見て、社会に問題がない団体として認知されてしまうのは「困る」という感情を抱いた。 被告は幼少期に父が自死し、兄が重病を抱える不安定な家庭環境で、旧統一教会に入信した母の言動などもあって、家庭内で安息の場所を得られなかった。その生い立ちは不遇な側面が大きい。幼少期から青年期にかけての各種体験が、人格形成や思考傾向に一定の影響を与え、犯行の背景や遠因となったこと自体は否定できない。 しかし、現実に殺人行為で他者の生命を奪うと決意し、手製銃などの製造を実行する意思決定に至ったことには大きな飛躍があり、生い立ちの影響を大きく認めることはできない。 被告は旧統一教会に「一矢報いる」という目的のため、元首相が「本筋ではない」と理解しつつ、生命を奪うことを決意したと認められる。自身の都合を優先させて襲撃を決意したもので、元首相には被害を正当化できるような落ち度は何ら見当たらない。短絡的で自己中心的な意思決定過程についても生い立ちの大きな影響は認められない。 被告が犯行を決断したことは被告自身の意思決定にほかならず、意思決定過程には強い非難が妥当する。動機や経緯について大きく酌むべき余地は見当たらない。 【情状関係と結論】 被告は遺族に対して申し訳ないと述べており、事実関係を認めているが、犯行の危険性や、1人が死亡したという結果の重大性を十分に認識している態度は認められず、十分な反省に至っているとは認められない。 元首相に殺意を持って2回にわたり発砲した悪質性および危険性の高さは、他の事件に比べても著しく、最も重い部類に属すると言える。危険性や計画性の高さ、生い立ちは大きく影響しておらず酌むべき余地も大きくないことなどを踏まえると、無期懲役が相当と認められる。
